Second Genesis           神様の使い



 歩けども、歩けども世界は一向に変わらない。


 燃え盛る炎のような空。緑一つなく、代わりに崩れた建造物と無数の機械たちの屍だけが野ざらしに広がる果てのない砂漠。


――――――やっぱりダメだったか……。


 目頭が熱い。膝に力が入らなくなったわたしは灼熱の砂にその身を預ける。

 熱せられた砂がわたしの身体を容赦なく焼くけれども、そんなことは今のわたしにはどうでもよかった。

 ポロリ、ポロリと流れ落ちる涙。それを拭うことすらせず確信を持って呟く。


「―――――嗚呼、もう誰もいないのか」



 わたしの身体は既に限界だった。もうわたしに残された時間は半刻もないだろう。そのことがなんとなく、けれども確実な予感としてあった。

 わたしが死んでしまう。そのことがなによりも怖くてまた涙を流す。

 この命が尽きてしまったら、この星は本当の意味で死の星になってしまう。なにもかもが死に絶えたこの世界。あとに残るのは赤い空と砂漠だけではあまりにも悲しすぎる。



 シャリ、シャリ、シャリ、シャリ……。

 ふとわたしの耳は誰かの足音を捉えた。

 誰かがいる。わたしが最後の一人じゃなかったんだ! 

 そのことが嬉しくて、嬉しくてわたしは何度目かの涙を流す。けれどもその涙のせいで瞳が曇って目の前の光景を上手く映してはくれない。

 そこで最後の力を使って手を動かし涙を拭い、わたしに近づいてくる誰かに向って精一杯の笑顔を浮かべる。

「……よかった」

 けれども悲しそうに首を振り、答える。

「すまないが、私は人間ではない」

 目の前にいたのは四十代ぐらいの男。この紅蓮の世界において、男の着ているシミ一つないその白いスーツはあまりにも浮世離れしすぎている。

 だからわたしはこの男の人間じゃあないという言葉をすんなりと納得してしまった。


だったらこの男の人は誰なんだろう?


「……神様の使い、とか?」

 なんとなく出た言葉だけれど、わたしにはこの男の人を表わすのにこれ以上のものはないと思った。

「そう、か。ああ、そうだ。私は神様の使いというやつだ」

 どこか嬉しそうに語る神様の使いにムッとなる。

「……それで、神様の使いがわたしになんの用ですか?」

「なに、最後の生物である君に選ばせてあげようと思ってね」

 やっぱりこの星に生物はいなくなってしまったのか。自分でもわかっていたけれども実際にこうやって伝えられるのとでは違ってくる。

「……なにを?」

「このまま君が死んで、この世界を完全に死の星にしてしまうのか。それとも代償を払ってこの世界をやり直すのか。そのどちらかを君に選ばせてあげよう」

 出来るならこの世界をやり直してしまいたい。けれども一つ気になったことがある。

「……代償って?」

「ああ。それは……」





 紅蓮の空の下、灼熱のベッドでわたしは微睡ろむ。醒めない夢をその身に抱いて。

 

 一人の少年が世界を変えるその日まで……。

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