第180話 移民と先住民

「離れるな!このままいくぞ!もう少しで国境だ!!」


 あれからしばらく後、隣国から大量の竜人たちが国境を無理矢理超えて、エルたちの国であるアルビオン共和国へと逃れてきていた。

 少数ならばまあ大したことはないが、大量の人間たちが国境を突破していくのは、国境警備隊も問題視するのは当然だ。

 アルビオン国からしたら、どこの馬の骨とも分からない竜人たちが大量にやってくるなんて、スパイやテロリストやらが混じっている可能性も十分高くてたまったものではない。しかし、ここで無理矢理押し返す訳にもいかない。

 自然と受け入れる形になり、それらは全てエルの元へと送り届けられていた。


『何で!?』


 そこで困惑したのは、エルである。何せ隣国から逃げ出してきた竜人をどんどん受け入れる羽目になってしまったのだ。

 自分が何もしてないし関係もない人間たちなんて、さっさと押し返すかどうにかしたほうが賢明であることは明らかである。……だが、ボロボロの彼らで縋るような目つきで見られては仕方ない。


『……アヴリル。すまないが皆にスパイやテロリストじゃないか読心魔術をかけてくれ。否定した奴らは叩き返すと伝えておいてくれ。』


「かしこまりました。ですが、王都に彼らをあまり多数置いておくと反感を買う形になりますよ?あまりに厚遇しすぎるのも他の人間からの恨みを買う形になりますし……。」


 そのアヴリルの言葉に、エルは頭を抱えながら答える。アヴリルほどの魔術師ならば読心魔術などで彼らがテロリストでないとは判断できる。だが、豊かな暮らしを夢見て他国に寄生してくるのが目的の人間たちとなればまた話は変わってくるし、周りの人間たちも当然そう見てくるのは当然だ。

 新しく入ってきた竜人たちと今までの住民たちとの融和は、滅茶苦茶大変だということは想像がつく。


『分かってる……。分かってる……。と、とりあえず開拓村に分散していってもらうか……。竜人なら頑丈だし肉体仕事も務まるだろ……。楽な仕事じゃなくてきつい仕事を田舎村でやらなくちゃいけないとなれば、儲かるや楽だからと言って来るはずではないだろうし、先住民の見る目も変わるはず……。』


 エルは短い両手で頭を抱えながらアヴリルの言葉にそう返した。

 これからどんどん竜人や亜人たちが流れ込んでくれば、先住民とのぶつかり合いは当然出てくる。それらをどう融和させるのか、その大変さを考えて、エルはさらに頭を抱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る