第162話 久しぶりの配信。
『うーん、どうしようかなぁ……。』
自分のために作られた竜神殿内部の自分の部屋で、ごろごろ転がりながらエルは色々考えていた。それは、自分の信仰のことである。
教義など色々考えなくてはならないことはあるが、とりあえず人を集めなければならない。この世界の人間たちは大抵何かしらの信仰を行っている。
農民たちならば農業のための大地母神信仰、市民たちは至高神や法神信仰などだ。
見せかけで一応信仰を行っている市民たちがほとんどだが、実際に神が存在するこの世界で無神論、無信仰を貫くのはよほどの変人でなければ無理だ。
そして、それらの人々が棄教して竜信仰になるなど、他の神殿から確実にエルは敵視されて抹殺されてしまうだろう。
そこでエルは悩んでいたのである。
『……そうだ!!もしかしたらアレが使えるかもしれない!試してみるか!!』
そうして、エルは双子が残していた魔導カメラを起動させて、いそいそと配信を行う準備を始めた。
『やっほ~。皆元気してたかな~久しぶりの我だよ~。』
《あっ変人、もとい変竜だ。ずいぶん久しぶりじゃん。》
《お前はどうでもいいんだよ!双子出せ双子!!》
《俺たち頑張ったんだぞ!!ご褒美寄越せご褒美!!》
なんだかんだで彼らもレジスタンスとして陰ながら頑張った人々だ。何も報いがなければ人心が離れていくのは事実である。
幸い、今まで大迷宮を攻略して貯めた金銀財宝は存在する。それらをレジスタンス活動を行ってくれた人々に配布することを発表すると、その態度はころっと一変した。
《いよっ!さすが竜様!》
《いや、俺たち頑張ったんだしこれぐらい当然だよなぁ!まあ隠れながら情報流していただけだけど。》
《レジスタンス活動で重症を負った奴らや死亡した奴らもいるんだけど、そいつらや遺族の保証は多めで頼むわ。マジで。》
その言葉に、思わずエルも了解、と返した。重症と言っても、エルの治癒魔術ならば人間の魔術より出力が高いので十分治る可能性はある。(治癒魔術は得意ではないが)
お見舞いがてらに治癒魔術と金を持っていこうかなぁ、と思いながらエルは本来の目的から外れているのに気が付く。
『おっと忘れてた。まあレジスタンス活動を行ってくれた報酬もきっちり払うから、我に対して信仰……はともかく、何らかの感謝の念とか試しに行ってくれない?そうなれば我はさらにパワーアップするかもしれんから試しにね。』
そう、彼が考えたのは配信で多数の人からの感情の流れを集めればそれが信仰になるのではないか、という考えである。
これが成功すれば、他信仰から信仰を奪わなくても緩い感じでパワーアップできる……はずである。今回の配信はその試金石となる予定なのだ。
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