第121話 中央指令室での戦い5

「助けて……。お姉ちゃん……助けて……パパァ……。」


 下半身が完全に押しつぶされているノインを見て、教授は流石にこれはもうダメだな、と冷静な部分で判断を下す。

 このままでは彼女は出血死するだけだろう。だが、助ける手段はある。

 それは、ノインの首を切ることだ。首を切り落とし、魔術で首を保存しながらこの場を離脱して、後で他のクローン体に記憶と人格を移植すればいい。

 肝心なのは彼女の脳に存在する情報……データだけである。

 データのバックアップを取ってコピーをクローン体に植え付ければそれだけで彼女は救える。

 都市伝説じみた話になるが、人間はギロチンで首を切り落としても10~20秒ぐらいは生きていられるらしい。

 その首を時間を止めるか何かして魔術的に保護すればいいのだ。

 ここで迷ってる暇などない。魔術師ならば迷わずに彼女の首を切る場面だ。情に流されず冷酷にやるべきことをやる、それが魔術師だ。

 教授は、鉄杖に魔力の刃に纏わせて、ノインの首に当てる。


「痛いよ……痛いよ……お姉ちゃん……教授……助けて……。」


 それを聞いた教授は、ため息をついて、鉄杖を置いてノインの頭に手を当てる。

 そして、そこから暖かい魔力を彼女へと流し込む。この魔力を流し込むことによって、彼女の痛みを消しているのだ。

 痛みを消しされたノインは、目を閉じながらも今までの激痛に悶える顔ではなく、穏やかな顔へと変貌した。


「あったかい……。気持ちいい……。ありがとう教授……。このままずっと一緒にいて……。」


 もう彼女を助けることはできない。ならばここで彼女を看取ってあげるしかない。

 教授だけならこの場から逃げることは容易い。

 だが、ノインを見捨てて逃げ出して生き延びるまでの気力は、すでに教授には存在していなかったのだ。

 もう疲れた。疲れたよ……と教授は心の中で呟いた。ノインは間違いなく地獄に落ちる。だが一人だけで地獄に落とすわけにはいかない。

 私が作り出して道具にしたのだから、責任は全て私にある。ノインの罪を背負って私が地獄に落ちよう、と彼は心の中で呟く。

 そこで、彼はちらりとエルやユリアのほうへと視線を向ける。


「……もう行け。ここは崩壊する……いや、彼女のせめてもの望みでミストルティンは最後の一撃を撃つが、それに耐えられずここは崩壊するだろう。さっさと逃げろ。……すまなかった。」


その教授の疲れたような視線に対して、エルは頷くこともせずに、さっさとユリアを開放して崩壊している指令室から逃げ出した。

彼にとってはもう教授などどうでもいいことだった。少しだけ巨大化してユリアを抱えたエルはその場からさっさと飛び去っていった。


「……すまなかったな、ノイン。せめて、最後の最後まで俺が一緒にいるからな。」



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