第119話 中央指令室での戦い3

『うぉおおお!!トラクタービーム!!』


 エルはとっさに重力魔術を使用して、重力子ビームを作り出しそれを半分崩壊した天井へと向ける。そして、まるで伸び縮みするゴムのように重力子ビームによって、急速にエルは天井に引き寄せられる。

 教授の鉄杖の範囲から逃れたエルだが、それでも魔術師である彼が遠距離攻撃を持っていないはずもない。

 遠距離攻撃を仕掛けられる前に、相手の意表をつく攻撃を繰り出すしかない。

 それを考えているエルは、中央指令室の天井がミシミシと悲鳴を上げているのを感じ取る。あれだけの外的ダメージを受けてボロボロになっているのだ。いつどこが崩れ落ちるか全く予期できない状況である。

 ならばこれを逆用すべきでは?とエルは考えた。ユリアの周囲は厳重な結界によって守られている。多少ならば問題はない……はずである。

 エルは、教授たちではなく、ミシミシと嫌な悲鳴を上げている天井に対して、自らの最強の吐息、ドラゴンブレスであるグラビティブレスを叩きつける。

 小型化してはいるが、腐敗竜を消滅させたその力は例え神の武器でも有効である。

 しかし、これを直接叩き込んでしまっては、ユリアも巻き込まれる恐れがある。そうなっては本末転倒である。

 グラビティブレスを食らってごっそりと消滅した天井はついに耐え切れずに、バキバキ!と音を立てながら崩壊し、下の皆に対して襲い掛かってくる。


「!?」


 その無数に襲い掛かってくる金属製の瓦礫や破片などに対して、とっさにノインをかばう教授。そして、こちらを攻撃してこないのを見て、エルはそのまま天井からユリアのところへと落下しながら突撃し、自らの呪文を唱える。


『石壁作成!!石壁作成ッ!!』


 ユリアの周囲に石壁を作り上げ、さらにその上にも石壁を乗せる形で完璧な防御壁を張り巡らせながら、その中へと何とか逃げ込んで金属の瓦礫や破片が襲い掛かってくるのを防ぐ。石壁の中で石壁と金属がぶつかり合う凄まじい音が響き渡るが、しばらくするとそれも落ち着く。

 ユリアを保護しながら、石壁を順番に解除していくエルだが、完璧に金属の土砂崩れともいえるそれに完全に埋もれていないのは救いだった。

 何とか這い出るエルが目にしたのは、とっさだったのか体を盾にしてノインを庇って片腕を瓦礫によって潰された教授と、それでも防ぎきれずに、胴体部を金属の棒で貫通したノインの姿だった。


「お姉ちゃん……。痛いよ……お姉ちゃん……助けて……。」


ぼんやりとした意識と痛みで、ノインはユリアに手を伸ばすが、教授の有様を見て、はっとノインは意識を取り戻して彼らに叫ぶ。


「き、教授!!こ、こんな……おのれクソどもが!!おのれぇ!!」


 痛みに悶えながらも、ノインはエルに対してそう叫んだ。

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