第110話 対消滅

 片腕でミストルティンの主砲である光の矢を弾き飛ばしたティフォーネに対して、その中の王座に座っているノインは驚愕に顔を歪ませて叫ぶ。

 こんな事などあってはならない。神の力を片手で弾き返すなどティフォーネは全くもってノインの常識外の存在であった。


「ば、バカな……!!ミストルティンの主砲を弾き返すなど!!第三射急げ!!ミストルティンならば……神の力ならば全てを吹き飛ばせるはずだ!!」


「思いあがるなヒトカスが!!そもそもお前らご自慢の神々の肉体を滅ぼしたのは我ら四柱だぞ!!私と互角に戦いたいのなら、神々の武器を後十本ぐらいは持ってこい!!」


 彼女たちエンシェントドラゴンロードは、たった四柱で光も闇の神々も全ての肉体を殲滅した決戦兵器とも言える存在である。

 ミストルティンもあくまでも抑止力、こちらに手を出せば痛い目を見るという警戒用の武装でしかない。

 ティフォーネは、片手にある竜骨杖を振るうと、天空を覆いつくす雷撃がその杖の先に落ちて雷撃の姿が変化し、直径10mもの巨大な雷撃の刃を構築する。


「はあああああ!!」


 ティフォーネは、空中を飛翔しながらミストルティンに切りかかり、雷撃の刃をその装甲に対して叩き込む。

 その激しい雷撃の刃によって、神々の金属で構築されているはずのミストルティンの装甲は文字通りの意味で切り裂かれていく。もはや雷撃ではなく、プラズマの刃と化したそれは、金属すら切り裂くほどの力を秘めているのだ。

 ヒットアンドアウェイで、一撃を入れた後で離脱し、自由に高速で優雅に空を飛翔するティフォーネに対してミストルティンはそれを捕えきれない。

 そもそも、ミストルティンは巨大な竜に対抗するための武装であって人間サイズの存在を狙い撃ちできるものではない。

 大砲で飛び回る蠅を狙うようなものだ。その間に次々に空中要塞であるミストルティンは何度もプラズマの刃で切り裂かれていく。


「この……舐めるなぁあああ!!」


 ノインはミストルティンに命じると、機体表面から飛び出した無数の魔力針から魔力の魔力の光が放たれ、その無数の魔力はティフォーネを束縛して縛り上げる。

 もちろん、この程度なら彼女はすぐに開放されるだろう。

 だが、ほんの少しの時間稼ぎと、彼女の動きを少しだけ止めるだけで十分である。

 その間に、ミストルティンは再度神力チャージを行い、主砲である光の矢を構築し、ティフォーネに光の矢を叩き込む。

 これだけの近さならばこちらにも多大な被害が及ぶがそれも仕方ないことである。


 ティフォーネは、自らの口を大きく開くと、その前方の空間がたちまち猛烈な帯電を放ち、それによって凄まじい光を放つ雷撃……巨大なプラズマ球を発生させる。

 ドラゴンブレス。ティフォーネは自らの最大の技である竜の吐息を叩き込もうとしているのだ。

 だが、そこで彼女はえっちらおっちらと森の中を走っているエルに視線を向ける。

 ここで全力を出して、ミストルティンごと消滅させてはエルすらも消滅しかねない。そのため、ティフォーネは全力ではなく、威力を大幅に調整し各段に低下させる。


 ―――対消滅。

 ミストルティンの主砲と同程度にまで弱めたティフォーネのプラズマブレスは、ミストルティンの光の矢に直撃し、お互いにその威力を消滅させていく。

 一撃食らって大体の出力を把握した彼女は全力ではなく、わざわざミストルティンの威力にまで自分のブレスを低下させて放ったのだ。

 ぶつかり合ったティフォーネのプラズマとミストルティンの神力はお互い真正面からぶつかり合ってほぼ相殺され、プラズマと神力の余波は辺り一面に無差別にあちこちに縦横無尽に放たれて周囲の木々がたちまち消滅していく。


「バカなぁぁああ!!この怪物が!!」


ミストルティンの全力を打ち破られて、その力を自分の力と思い込んでいたノインは信じられずに絶叫する。怪物と言われて、ティフォーネはその声をせせら笑う。


「全く持ってその通り!!私は貴女たちからすれば怪物そのものです!!今更そんな寝言をいうとは―――ちょっと覚悟が足りないのでは!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る