第95話 実験体は自分自身に限る。
不可思議な魔導装置や巨大なガラスケースやら、大量の魔術や実験結果が書かれた紙で埋もれている部屋。
その中でソファーに腰掛けながら、教授と呼ばれる男は実験結果の資料を読みふけっていた。
「ふむ……。やはりノインに対する負担が大きいのを何とかせねばな……。
簡単な答えとしては、その分処理用の脳を増やせばいい。神血持ちの脳を増やすことはいくらでもできそうだが……。」
「やめておこうか。となれば、より高性能な脳を手にするしかない。たかが普通の人間程度の脳ではすぐに焼き切れてしまう。エルダー級の『ヒュドラ』を投入すべきか……。しかし、上層部が納得するべきか。」
ふむ、と教授は自らの研究室の中で腕を組んで考え込みながら、ある手段を思いついた彼はパチンと指を鳴らした。
「……無いのなら自分自身の物を使えばいい。実に単純明快な理論だな。倫理的にも全く問題はあるまい。では、取り掛かるとするか。」
そして、しばらくして、教授の部屋の机をバン!と叩きながら猛烈な勢いで教授に食ってかかるノインの姿があった。身体機能も完全に使いこなし、自らの体内の魔術回路なども完全に使いこなす事ができるようになった彼女は教授に食ってかかる。
「教授!!これはどういうことですか!?」
そう彼女が指し示す先には、巨大なガラスケースが存在し、そこには、複数の教授の首が培養液と共に浮かんでいた。
そう、彼は他人をクローン化するのに倫理的問題があるのなら、自分の脳をクローン化すればいいと思いついたのである。
かなり老化しているとはいえ、これでもペテラン魔術師一歩手前の使い手である。
その脳を培養して演算装置として使えば、他の人間たちより遥かに合理的だという判断である。
「どうも何も、私自身をクローンしただけだが?自分自身を利用するのなら何も問題はあるまい?」
「そういうことではありません!何故叔父様がわざわざ自分自身のクローンを……!?あのクソ女のクローンを何体でも作り上げれば……!!」
そのノインの言葉は、かつん、という教授の鉄杖の音によって遮断される。
その時は教授が不愉快に思っているというクセは、もうノインも知っている。不服そうに口を紡ぐノインに対して、教授は少しでも納得させるために口を開く。
「ノイン、お前はお前が介護しているアハトみたいな子を増やしたいのか?お前の妹たちを地獄に落としたいのか?」
ノインの前のクローン体「アハト」はクローンには成功したが、精神が耐え切れなかったのか、そもそも発達できなかったのか、ただ歌だけ口にしながらベッドで寝たきりの状況になっているいわゆる「失敗作」である。
そして、そんな彼女を見捨てるわけにはいかず、ノインは彼女の面倒を何かと見ている。そんな姉……ではなく妹を増やしたいのか?と聞かれたらうっ、となってしまう。
「分かったらおとなしくしていろ。これからどんどん忙しくなってくるぞ。仕事に備えろ。それがお前のやるべきことだ。」
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