第90話 教授《プロフェッサー》とクローン体

 王都に存在する人類至上派の拠点、そこに存在する大食堂で大量の兵士たちが和やかな食事と会話を行っていた。


「それにしても、あの捕えた実験体捕虜。小娘のくせにいい体をしていたよなぁ~。

 厳重な結界に守られているわ、厳重な見張りがついてるわ、捕虜のくせに生意気じゃね?うまく潜入して美味しい所もっていこうぜwww」


「よし、何とか結界を解除する瞬間を狙って潜り込もうぜ。なかなかいい胸と顔をしてる捕虜なんだから、俺たちの好きにしても……。グベォア!?」


 その瞬間背後から凄まじい速度で突き出された鉄杖によって、兵士の頭部がまるでスイカのように吹き飛んだ。彼らの後ろに立っていたのは、およそ60代ほどの白衣を纏った初老の人間。

 全白髪の彼は、もう一人の兵士をじろり、と睨みつける。

 その全てを貫く眼光に、血に塗れたその兵士は腰を抜かして漏らしながら彼に向けて叫びをあげる。


「ま……。待ってください!!”教授プロフェッサー”!!俺たちは貴方に対して何もしていません!!それが何故……グバァ!!」


 血まみれで腰を抜かしたままの兵士も、その教授と呼ばれる老人が無造作に手にした鉄杖を突くと同時に、同様に頭部が粉微塵に吹き飛んで周囲を鮮血塗れにする。

 食堂を血まみれにしたその彼を見て、身動きする者は誰一人いない。

 それは、それだけこの”教授”と言われる人間が恐れられていることを示していた。

 その惨状を見て、警備兵が押っ取り刀でようやく駆けつけてくるが、その警備兵も”教授”に対して、遠巻きにして見ているだけだった。


「……彼らは私の実験体に手を出そうとしていた。よって私の権限で処分した。全兵士に実験体Uに手を出さないように通達しておけ。各隊長にもきちんと伝えておくことだ。次回繰り返したら、次は貴様らだとな。」


 かつん、と鉄杖の先で床を叩く彼に対して、警備兵たちもその場の兵士たちも背筋をピン!!と伸ばして声を上げる。


「「「り、了解しましたッ!!!」」」


「……ああ、兵士たちは『戦死』扱いにしておけ。報酬はきちんと遺族に出るようにな。愚か者に対するせめてもの慈悲だ。」


 その場にいる皆が背筋を伸ばしながら冷や汗を流している中、彼はかつん、かつんと鉄杖を突きながら食堂を立ち去っていった。


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 人類至上派の会議室、通称『円卓』

 そこでは、あの”教授”が皆に資料を見せながらプレゼンテーションを行っていた。

 それは、彼らが実験体Uと呼んでいる存在……つまりユリアのことだった。


「この実験体Uの体内に存在する神血ではあるが、完全に純粋な神血ではない。不純物である「竜の因子」が宿っており、それが神血の純粋性を阻害している。これ以上の神秘の低下は神弓『ミストルティン』の起動さえ阻害しかねない。

 そのため、神血の純潔性と神秘を保つため、彼女に対しての性的干渉ならび精神を傷づける虐待は厳禁とする。これが私の提案だ。何か質問は?」


 その資料を見ながら、彼らはううむ、と唸りを上げる。

 確かに神秘性、魔術において処女性というのは極めて重要である。

 それが損なわれるということは、清純性という神秘が剥ぎ落される事になり、魔術的・神秘的には「特別な存在」から「普通の人間」へと落ちてしまうことになってしまう。


「むう……。教授がそうおっしゃるのなら仕方あるまい。それに理論的にも正しい。」


 彼は魔術塔の中でも優れた魔術師であり、魔術師の位階としては、ファースト・オーダー(外陣)とセカンド・オーダー(内陣)の中間地点に位置する『予備門位階ポータルグレード』『「達人の地下納骨所」の予備門の主』と呼ばれる位階である。

 つまり、アデプタス・マイナー(小達人)であるアヴリルより一歩下の階位であり、それだけ優れた魔術師といえる。

 そんな神秘と魔術について専門家である彼の意見は、人類至上派にとっての大きな力となっていた。


「確かに理に叶っている。オリジナルのこれ以上の神血の神秘の低下は、クローンにも悪影響が及ぶか……。」


「論ずるに及ばん。兵士ごときの性欲で我々の大望が破綻するなどあってはならん!!教授、ぜひとも実験台Uの保護をお願いしたい。……で、クローン体の方は?」


 その円卓に存在する人間の大多数の賛成意見によって、ユリアは”教授プロフェッサー”の保護下に置かれる事になったが、当の本人はそれを知る由もなかった。


「……クローン体は1番目から5番目までは肉体的に失敗。6番目から8番目までは洗脳術式の失敗による精神的な問題点が解決されず。9番目のクローン体『ノイン』は肉体的にも安定。洗脳術式も「愛と憎悪」を交互に叩きこむ事で私に依存しながらもある程度の戦闘行動は行えるようになっている。最も急速培養した結果、寿命は1年。精神的にも不安定だがとりあえずの活動は何とかなるだろう。」


 つまり、簡単にいうとクローン体にして強化処置が施された強化人間という事である。あまりにも早いクローン体完成に、彼らは一斉に拍手を送った。

 これは今まで散々行ってきた人類至上派の人体実験データや人間培養技術などに加え、彼が時間を操作する魔術によってクローン体にそれらの魔術などを使用し、急速な促成培養を行ったからである。

 円卓から離脱した彼は、そのまま自らの研究室へと戻り、カプセル内に眠るユリアのクローン体に声をかける。


「―――起きろ。神血実験型クローン体9番目『ノイン』。仕事の時間だ。

 お前に存在する意味を与えてやる。」


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 お読みいただきありがとうございます。

 面白いと感じていただけたら、☆☆☆やフォローをいただけると嬉しいです。


はい、元ネタはACのあの人ですね。

あの人みたくカッコよく優しく書けないけど、独自にいきたいと思います。

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