第82話 貴族たちの動き
「ええい!!市民どもが騒いでいる程度でうろたえるな!!お前たちを守っているのは誰だと思っている!!この貴族であるワシらだぞ!!」
辺境伯の領地の近くの貴族たちは、熱狂的に騒ぐ市民たちの抑え込みで躍起になっていた。それはあのプロパガンダ演説の演説が一般市民たちにみるみるうちに広がっていったからである。そして、ここで騒いでいる伯爵もその一人だ。
あんな鬼畜の所業を行っている者たちが近くにいるなんてたまらない。あいつらを打ち倒せ!!と燎原の火のようにその怒りは一気に市民たちに感染していった。
貴族たちからすれば、市民や農民たちは自分たちの所有物であり、逆らうことなど思いもよらなかった。
だが、あの宣伝に共感した人々は、他の旅芸人や吟遊詩人を雇ったり(むろんこれは辺境伯が裏で手を引いている)魔導装置がなくて宣伝が見れない人々にも大々的に広まっていった。
プロパガンダ演説など経験したことのない純朴なこの世界の人間にとって、エルがうろ覚えの知識で色々組み込んだプロパガンダ演説は刺激が強すぎる代物だったのだ。むろん、この程度騎士が向かえば容易く鎮圧できるだろう。
だが、辺境伯から送られてきた手紙を見て、その貴族はさらに顔面を真っ青にする。
それは、あのサイトを閲覧していた彼の詳しい閲覧履歴だった。こちらに従わなければこれを市民たちに流す。そうすれば「お前も敵か!」と市民たちは暴徒になって貴族たちに襲い掛かってくるだろう。
その手紙を見て、その伯爵はがくり、と首を落として辺境伯に賛同することを(渋々ながら)受け入れた。
「……ふむ、まさかこれほどの貴族がこちらに与するとは予想外だったな……。」
辺境伯の城の中、辺境伯ルーシアは流れ込んできた貴族たちのリストを見ながらそう呟いた。あの演説の後、辺境伯周辺の中立派の貴族たちは続々と中立派から保守派へと雪崩れ込んできた。それは今までのほほんと様子見をしてきた中立派が、あれほど人類至上派が頭がおかしいという事実を目の前にしたからである。
何よりも、彼らの領土にも亜人たちは大量に居住している。大事な領民をそんなイカれた思想の生贄にさせるか!絶対これ禍根を残す奴だろ!!と目ざとい貴族たちは中立派を投げ捨てて保守派へと与することになった。
「まあ、元々同じ王国の人間だから別にいいのだが……。それでも他の選帝侯がどう動くかだな……。」
選帝侯とは、国王の投票権を持つ七人の諸侯である。大貴族もいれば、大司教など数々の存在がおり、彼らの投票によって国王は決定される。
だが、そのシステムも選ばれるのは神の血を引いた存在である王家の末裔などに限られており、事実上の出来レースといっても過言ではないだろう。
だが、その王家の末裔がほとんどいなくなってしまった今、他の選帝侯たちがどう出てくるか全く読むことができない。その厄介さにルーシアははあ、とため息をついた。
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