第81話 人類至上派に正義なし
そんな中、レイアの配信チャンネルはみるみるうちにその登録者数を増やしていた。
それは視聴者たちの地道な宣伝の努力の結果である。
あちこちのサイトやら何やらで地道に宣伝を行った結果、うざいと叩かれつつもこれだけの短期間で大幅に視聴者を増やしたのはそれだけで十分だろう。もちろん、視聴者同士がサクラになって盛り上がるという展開もあったが、別に禁止されているということでもないので問題ない。さらに、あちこちのサイトにアヴリル特性の魔術式で自動的に展開されて宣伝されるという宣伝ツールも視聴者の手で仕込まれている。
そして、ついに、レイアが大規模宣伝……もとい、人類至上派に宣戦布告する時がやってきた。
いつもの冒険者との姿とは異なり、辺境伯ルーシアが用意した貴族向けのドレス。
パニエによって大きく膨らんだスカート、フリルやリボンがふんだんについたドレスは豪華さと繊細さ、そして華やかな雰囲気をレイアに与えていた。だが、女性憧れのドレスと言ってもレイアからすればこれは戦闘服も同然である。
その王家特有の銀の髪をクラウンブレイドに、緑の瞳に毅然とした力を宿しながら、辺境伯ルーシアの城内部で、レイアは魔導カメラの前に立つ。
これは、レイアが辺境伯であり選帝侯でもあるルーシアが直々に選んだ王位継承者候補であることを証明するためでもある。
そんな彼女の脳裏に、アヴリルは放った言葉が脳裏をよぎる。
(人間は、他人の強大な人間の悪意には耐えられない。必ず何らかの形で反発を起こします。「自分はああではない」「自分は違う」「あんなのは叩き潰してやる!」
それは自然に出る感情であり、別に否定するべきではない。
まあ、それは別にいいんです。問題はそれをいかに利用するか、です。)
レイアは深呼吸を行うと、堂々とカメラに向かって演説を開始する。
「皆さん、初めまして。私はこの度ルーシア辺境伯様から推薦されたレイアというものです。王家の血は引いていますが、市民出身なのでフォンの名はいまだない事をお許しください。」
《来たぁあああああ!!》
《うぉおおおお!!めちゃ綺麗やでぇええ!!》
《何やこの女。うさんくさ……。市民出とか絶対偽物だろ。》
そんな批判的なコメントも次々とついているが、レイアは気にせずに演説をさらに続けていく。
「親愛なる皆様。どうぞ私の話をお聞きください。今やこの国、アルビオン王国は未曾有の危機に陥っています。王都を人類至上派のクーデター軍が支配し、国は分裂され、亜人は弾圧されています。皆さんもお聞きかもしれませんが、亜人弾圧は事実です。」
そこで、王都に住んでいる視聴者から撮られた映像が流し出される。泣きわめく亜人の子供をリンチしていく人々。逃げ回る亜人の女性を笑いながら追いかける人々。
道端に並べられている亜人たちの死体。家畜同然に皮を剥がされて吊るされた亜人たちの姿。
それはまさしく、とある人々に対して行われたポグロムそのものであった。
「ご覧になりましたか?これこそがクーデター軍、人類至上派たちの行っている事です。戦争や戦いにも最低限の倫理が存在します。ましてや戦争でもないのに女子供を嬲ることがどこが正義があるのか!?私はこれを強く糾弾します!!」
《おいおいおい。これシャレにならんぞ。》
《亜人のワイ噂に聞いていたけど戦慄する。ま、マジか……。(震え声)》
《ちょっと待ってくれよ。これ純人間の俺でも勘弁してほしいんだけど?こんなのやられるところで暮らしたくないよ俺。》
現代よりも中世ヨーロッパに近いこの世界では、まだまだ野蛮なことは山のように存在する。公開処刑、山賊の横行や彼らの村人への行いや見せしめのための死体吊るし、車輪刑になって吊るされる人々。だが、それでも限度というものがある。
「そして……こちらをご覧ください!!これが人類至上派が行っていることです!!
こんなことを行っている者たちに正義など存在しない!!これは皆さんも理解していただけるでしょう!!」
アヴリルが探索して見つけた山のような残虐、残酷な映像が流れた瞬間、コメント欄は阿鼻叫喚へと変貌した。それは耐性である彼らでも絶叫するほどの正気度がゼロになるような人類の悪を結晶化した悪趣味を通り越した代物だったからだ。
《う、うぁああああああああ!!なんじゃありゃああああ!!》
《うげぇええええ!何だよこれ!無理矢理の近親相姦とか拷問、殺戮シーンを娯楽として配信してるとか!!》
《ぐげぇええええええ!!(ガチ嘔吐)》
《おいふざけんなよ!!何が人類至上派だよ!!お前たちが一番人類侮辱してるじゃねーか!!》
《生かしておけねぇ……!!こんな奴らは生かしておけねぇ……!!そこらへんの怪物よりよっぽど有害じゃねーか!!》
「確かに我々、旧王家は苦しむ人々を無視し、重税で農民の皆様を苦しめました。
それは事実です。ですが!我々といえどこのような人倫にもとる手段は取らなかった!!このような外道な手段は取らなかった!!
これのどこが正義のためか!!人類のためか!!否!断じて否!」
その映像をバックにしながら、レイアは拳を振り上げながら演説を行う。
ここが山場であり盛り上げる場所だと彼女も知っているからだ。
「他人を無理矢理、近親相姦を押し付け!拷問や殺戮を行い!!それを娯楽として楽しみ!拷問や殺戮を娯楽として楽しむ!!それは人類の目指すべき道ではない!!私は王家の名のもとに、否、人類の尊厳のためにクーデター軍、人類至上派を糾弾します!!敢えて言いましょう。人類至上派に正義なし、と!!
立ち上がれ!生き残るために立ち上がれ!!我々反乱軍は亜人であろうが竜であろうが友に戦ってくれる人なら構いません!!生き残るために共に手を取り合いましょう!!」
レイアの演説により、コメント欄は凄まじい状況になった。文字で覆われてもう読めないほどである。しかも、アヴリルはそれだけではなく、一時的にこれはまさに怒涛、枯野に火を放つ勢いで周囲に広まっていった。
一番衝撃を受けていたのは、亜人たちではなく、普通の人間、貴族、市民たちであった。あの映像を見て「自分たちは大丈夫だろう」という平常性バイアスは木っ端微塵に砕かれた。
「自分たちもああいう風に玩具にされるのではないか?」という恐怖はたちまち彼らに襲い掛かり、一気に波を打って辺境伯軍へとなだれ込んできた。
------------------------
お読みいただきありがとうございます。
面白いと感じていただけたら、☆☆☆やフォローをいただけると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます