第69話 腐敗竜ルトナ消滅。
強力な重力波の奔流ともいえるエルのグラビティブレス。
それはティフォーネの雷撃から変換した魔力を全て消費する勢いである。
エルとしてもこれだけ漲った魔力を全開にしてブレスにしたのは初めてである。
これだけの魔力の余剰があるのなら、本来なら数発分のブレスを撃つことができる。
だが、エルはそれらの魔力を全て今回の一撃につぎ込んだのだ。
その漆黒の重力波の奔流が、回避しようとする腐敗竜に直撃していく。
『グ……グァアアア!!』
その漆黒の光、膨大な重力波に飲み込まれる前に、腐敗竜は何とか自分の尻尾を切り離すが、できるのはそこまでだ。
腐敗竜の腐敗と腐食の吐息では、純粋な重力波に対しては対抗ができない。
並外れた再生能力も、全てを分子レベルで粉微塵にする重力波の前では無意味である。
ブラックホールを思わせる巨大な潮汐力によって全ての存在は分子レベルで分解され、どれほど強力な構造を持つ物体であってもこれに耐えることは不可能である。
ましてや、極めて柔らかい腐りはてた肉体である腐敗竜では耐えられる道理もない。
このように非常に強く不均一な重力場によって、腐敗竜の肉体は引き裂かれていき、その腐った肉体も潮汐力によってさらに細かく引きちぎられていく。
生物に対しては極めて強大な力を誇る腐敗竜であるが、このような物理現象に対しては手も足もでない。重力波と潮汐力によって文字通りの意味で粉微塵になっていく腐敗竜は叫びを上げた。
『後悔するぞ!愚か者ども!!我のいうことが正しいと!!竜による力による世界統治を行っておいたほうがよかったと!!必ず後悔するぞ!!呪われるがいい愚か者がぁああああ!!』
その絶叫と共に腐敗竜は重力波に飲み込まれ、その肉体を粉微塵に粉砕されていった。彼の元の両腕であった小型腐敗竜も同様である。
腐敗竜たちを粉微塵に粉砕しながら、エルの放ったグラビティブレスは直線状に森を切り裂いていった。直線上の重力波は大地も木々もあらゆる存在を粉砕していき、数キロメートルの直線状のクレーターが構築される。
《す、すげぇえええ!!竜ってこんなことできるんだ!!》
《文字通りの意味で災害じゃん……。こんなの戦うとかむーりぃー。》
《こんな怪物と戦うなんて無理じゃん……。(震え声)》
何重にも保護された妖精の魔導カメラによって映し出されたその配信を見ながら、視聴者たちは思わず絶句していた。
だが、そんな彼らやエルを横目にしながら、ティフォーネはとある方向を睨んでいた。
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『ハァ……ハァ……。我は死なん……。死なんぞ……。絶対に……。奴らに一泡吹かせるまでは……。』
もはやトカゲ並みの大きさになりながら、森の中を必死で彷徨い歩く異形の存在。
それは切り離された尻尾を魔術で時空跳躍させて何とか生き延びた小型の腐敗竜だった。とっさに尻尾を切り離し、こちらの方に本体の魂を付与し、何とか逃げ延びたのである。そして深い森に紛れ、再び力を蓄える。消滅の危機ではあったが、何とかそこまでは考えることができたのだ。だが。
「……全く、哀れだな。どこまで落ちぶれてまだ生きていたいとはのぅ。」
その言葉に、腐敗竜は空を見上げる。そこに浮かんでいたのは一人の巨大な翼と茶色の髪を肩で切りそろえた豊満な肢体を持った竜人。
だが、その瞳、その膨大な魔力を忘れるはずもない。宿敵地帝シュオール!!
怒りと憎悪を持って見上げる腐敗竜を、彼女は哀れな物を見る瞳で見下してくる。
見るな!!その目で我を見るな!!腐敗竜は心の中で絶叫するが、シュオールはそれを歯牙にもかけず、一つだけ問いかける。
「哀れな竜よ。禁断の混沌の力を得て、肉体を腐らせてまで何を望んだのだ?静かに穏やかに暮らせばそれでよかっただろうに。」
「せめてもの情けだ。我が一瞬で消滅させてやろう。腐敗竜よ。長年にわたっての苦しみをこの我が解放してやろう。」
その言葉と共に、腐敗竜ルトナはふと自分自身のことを考える。何故なのか?何故ここまでしなければならなかったのか?そこで、彼の中に一つの答えが出た。
ああ……。そうか。我は……シュオールみたいになりたかったのだ。シュオールみたいに、強くてカッコいい、誰もが畏怖と敬意をもって扱われる、そんな竜になりたかったんだ……。
その思考を最後に、腐敗竜ルトナは完全に消滅した。
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