第67話 ティフォーネの怒り
ここ一帯を覆うような雷撃の雨。それらはエルを避けながら天空を破る轟音と共に腐敗竜の肉体に突き刺さり、腐った肉をことごとく焼き尽くしていく。
その熱によって腐った肉は焼きただれ、彼の病毒を纏った肉も高熱によって浄化されていく。炎ほどではないが、雷撃の高熱でもその体に宿った病毒などを浄化できる。ぷすぷすと体から煙を上げる腐敗竜を見下ろしながら、ティフォーネは言葉を放つ。
「さて、中々ちょうどいい的が表れて、私も体の錆を落とすための絶好の機会ですね。少し本気を出すとしますか。」
そういうと、ティフォーネは軽く手を振る。それと同時にその手の動きに連動して、その手の降った先の直線状の空間全てが断ち切られる。
空間が断絶し、ずるりと空間自体がずれた瞬間、その直線状に存在するもの全てを断絶する。
―――空間断絶。すなわち、次元斬。
次元自体を断絶したその刃は、物体の硬度に関係なくあらゆる存在を両断する。
その次元の断絶によって、腐敗竜の左腕と左足半ばが切れ味のいい名刀で両断されたようにスパッと切り裂かれる。
「チッ、逃したか。ならば連発して体中を全て切り裂いて……。」
いやいや、とそこでティフォーネは頭を振って正気に戻る。元々腐敗竜はエルのいい感じのボスキャラとして設定したはずだ。ここで私があいつを倒してどうする。いかんな。興が乗りすぎた、とティフォーネは反省して攻撃を中断する。
そして、そんなティフォーネを見上げながら、腐敗竜は叫びを上げる。
『ガァアアアア!!何故だ!!何故貴様は我に敵対する!!
貴様らが何もせずに世界を放置しているせいで、我々竜族の同胞は次々と人間どもに襲われている!!それもこれも、お前らが超越種気取りで何もしようとしないからだ!!このまま行けば、人類という猿は癌細胞となってこの星を食らい尽くす!!
それより前に、我々竜族は世界を支配しなければならない!!
竜のための竜による世界を作り上げなければならないのだ!!我々にはそれだけの力と権利が存在する!!ヒト猿という世界の癌細胞を抑制するために、奴らを我々が支配して数を統治しなければならないのだ!!それが何故分からん!!』
ヒトではなく、竜の立場からすればある意味当然とも言えるその意見。だが、ティフォーネは宙に浮かびながら、冷笑を浮かべてその意見を一蹴した。
「だから?それがどうかしましたか?そりゃ私だって気に入らなければ人間どもなんていくら殲滅してもいいですが、わざわざ何もしてない奴らをどうこうしようなんて思いませんよ。それに貴方、「俺がシュオールを倒して竜の頂点に立ち大地を支配する!」とか前(数百年前)に言っていましたよね?要は竜も人間も全て支配して好き勝手したいだけじゃないですか?そういうのを人間社会では「暴君」というらしいですよ?その結果がその有様だとは滑稽ですね。」
黙れ!黙れ黙れ黙れ!!と腐敗竜は叫びを上げる。それを冷ややかに見降ろしながら、ティフォーネは全てが凍り付きそうな冷徹な声と瞳で腐敗竜に対して言葉を放つ。
「ああ、それより何より気に入らない理由がありました。……貴様。エルダー級の分際で我の親友と親友の息子に喧嘩売っておいてタダですむと思っているのか?それこそが何よりも罪深い。滅びをもってその愚かさを贖え。」
轟轟と彼女の意識に従い荒れ狂う豪風。さらに天空も一面を覆いつくす雷撃で構築された雷撃の雲。それを背にしながら空に浮かびながら爛々とした瞳で腐敗竜を見下ろす彼女は、明らかにただの人間ではなかった。
《もしかして……この人、すごいヤバイ上位存在なのでは?》
《こ、怖いよぉおおお!!何が怖いって人間なんて虫けら扱いなのが怖いよぉおおお!!》
《これアレか?形を持った神霊か何かで?(震え声)》
ようやくお気づきになられましたか……とエルはコメントの向こうの視聴者のコメントに突っ込みを入れた。
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