第48話 鱗の浮遊機雷


『いってええええ!!爪剥がされたああ!!』


 爪を剥がされた猛烈な痛みがエルに対して襲いかかる。爪が剥がされるのは痛いのは竜も人も変わらない。

 激痛にのたうち回りそうになるのをエルは何とかこらえる。


《竜の爪を剥がされすとか化け物か!?》

《化け物だよ!十分化け物だよ!!》

《デュラハンってあんなに強かったの!?マジ!?》


『ぐあああ!この野郎!厄介極まりすぎんよ~!!』


 エルはさらにデュラハンに向けて爪を振るうが、デュラハンはまるでボールのように逆らわずに弾き飛ばさせる事によって、ダメージを最小限に止める。

 空中に浮いたボールを殴っても、そのまま吹き飛んでいくように、デュラハンもそのまま衝撃に逆らう事なく、自然に吹き飛ばされていくのだ。

 狙いすましたユリアたちの遠距離攻撃も、今度は剣によって弾き返される。

 無重力状態でも平然とエルたちと戦うデュラハンは、到底普通のデュラハンとは思えなかった。


(どうする……。このままではこちらが不利になる。何とかあいつを退去させる手段は……。)


 そこで目を付けたのは、やはり遥か向こうにあるデュラハンのストーンサークルだ。

 あれをどうにかすれば、デュラハンはこの世界から退去するだろう。だが、向こうはそれを予期しているはずだ。簡単にそうさせはしないだろう。

 その中、ユリアはあのエルですら必死でするデュラハンをどうにかするべく考えていた。


(考えろ……!考えろ……!!デュラハンも無敵ではないはずだ。何か欠点、欠陥があるはずだ……!!欠点……欠陥……首?)


(そういえば……首がないのにどうやって感知しているの?視界も嗅覚も聴覚も存在しないのに何故あんなにも適格な攻撃が?となれば、彼特有の何らかの感知器官があるはずだ……それは……。)


「竜様!!あの爪に魔力を込めることができますか!?」


『えぇ!?いきなりそんなこと言われても困るよ我!!まあやるけど!!』


 地面に落ちた爪に対して魔力を込めるエル。元々自分の肉体の一部である自分の爪に魔力をこめるなどいとも容易い事だ。

 そして、その瞬間、デュラハンは明らかにないはずの首を左右に振るように動揺を見せ、爪に突撃するとそのまま剣をスカッと空振りさせる。

 やはり思った通りだ。デュラハンは周囲の相手の魔力を探知してそれで攻撃を仕掛けているのだ。いわゆるレーダーと同じで微弱な魔力レーダー波を周囲に発生させて、その反射や魔力波長などから相手を探知しているのだろう。

 爪に魔力を込めることによって、デュラハンからはもう一匹小型のエルが出現するように見えたのだろう。それで動揺して攻撃を仕掛けてみれば、見事に空振りをしてしまったのだ。


『なるほど!!それならば……これでどうだ!!』


 エルは自分の尻尾を自分の胴体にこすりつけ、それによって自分の鱗を数十枚剥ぎ落し、それの落ちた自分の鱗に対して、自分の魔力を込めていく。それに応じて、数十もの鱗は光を放ちながら宙を舞う。

 これは簡単に言うとチャフによるミサイルのレーダー撹乱と似たような原理である。


 何十もの魔力熱源体を構築させ、相手の魔力レーダーをかく乱させる。

 それは、肉眼ではなく、魔力で把握を行っている彼にとっては効果覿面だった。

 いきなりの数十もの不審な竜と同じ魔力波動の魔力体が出現し、戸惑うデュラハン。

 だが、小規模の魔力体ならば当然巨大な方が竜だろうと、デュラハンは当たりをつけて鱗が浮遊している空間に頭(ないけど)から飛び込んでいく。


『今だ!!起爆!!』


 その瞬間、宙に浮いているエルの鱗が次々と爆発していく。言うなれば、浮遊機雷のようなものだ。鱗に込めた魔力を爆発させることによって、空中に浮かぶ機雷をエルは作り上げたのだった。


《うおお!あんな技が!!》

《やるやん!!これは予想してなかったわ!こんなのがあるとは!》

《これは勝ったなワハハ!!》


ええいやかましい、素人は黙っとれ。と思わず口にしたくなったが、そんなことはお構いなしにエルはさらなる迎撃の準備を整えた。



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