第31話 魔獣マンティコア現る。
「ゴァアアアアッ!!」
シチューの匂いなどを嗅ぎ付けたのか、奥から葦笛とトランペットの合奏が混じったような咆哮が聞こえてくる。
どこからどう見ても、それは怪物の咆哮以外何者でもない。
エルは念のため、《石壁作成》を作り上げて、石壁を作ってユリアたちを保護する。
これほどの咆哮だとかなりの怪物であることは明らかであろう。
パンやシチューなどで体力を回復したエルは再び巨大化して敵を待ち受ける。
と、向こうから何かが凄まじい勢いで射出してくるのを、竜の動体視力は確認していた。
『《石壁作成》ッ!!』
向こうから射出してきた何かを、エルはとっさに石壁で受け止める。平然と石壁に突き刺さるほどの威力。こんな物を食らっては軽鎧を付けた人間では安々と貫通させられるだろう。それは数本の太い「針」そのものだった。
そして、おぼろけな光で「それ」が現れた瞬間、コメントが溢れるように流れ出す。
《マ、マンティコアやぁあああ!!》
《ここあんな化け物まで出てくるのぉ!?》
《流石にユリアちゃんたちには荷が重すぎるよ!!頼んだぞドラゴン!!》
3mもの大きさをした獅子の体をした筋肉質な四肢を持つ人のような顔をもつ怪物。
顔や耳が人間に似て淡青色の眼を持つ、体はライオン大で紅毛、3列に並ぶ鋭い牙を持ち、人間を食らうとされる人食いの怪物。
鋭い爪や牙を持ち、鱗で覆われた尻尾の先にあるのは、強力な毒針。
この射出された毒針こそが石壁に突き刺さった物体の正体である。あんなものをまともに食らったら、人間などたちまち串刺しだ。
しかし、流石に人食いの怪物も相手がドラゴンではいつもと勝手が違うのか、唸り声を上げながら牽制をしているようである。
(マンティコアか……。厄介なのは毒針だよな……。呪文を唱えるマンティコアもいるらしいけどどうなんだろうか……。)
そう考えている内に、マンティコアは咆哮しながらその四肢で床を蹴ってこちらへと凄まじい勢いで疾走してくる。
肉体は重いものの、その筋肉で覆われた四肢は十分な俊敏性をマンティコアへと与えている。
『《重力魔術》ッ!!』
とっさにマンティコアに対して重力魔術で重圧をかけるエルだが、ズン!と確かにマンティコアは重圧を受けて動きを鈍らせたが、空中に浮かんでいなく、しっかりとした四肢で地面を支えているマンティコアに対して、単純な重圧は効果が薄い。
だが、動きが鈍っただけで十分である。
マンティコアの爪を何とか回避した彼は、それを迎撃するように爪を振るい、逆にマンティコアの肉体を爪で切り裂く。だが、マンティコアもたたではすまさなかった。
「《火球射出》ッ!!」
マンティコアが生み出した火球を、エルは鱗に覆われた腕でガードする。
『ぐぁあああ!!熱ッ!熱ッ!!なにさらすんじゃこのボケがー!!』
ちょうど腕を盾代わりにした事、そしてその腕に竜鱗が生えていたことによって、その火球はエルに大した威力を与えられていない。
元々、竜鱗に覆われている彼の肉体は天然のドラゴンスケイルを装備しているようなものである。その程度の炎で焼かれるはずもない。
《火炎食らって平気とかさすドラゴン。》
《おい、マンティコアを見ろ!何かやらかすぞ!》
だが、切り裂いたはずのマンティコアの傷は魔術の光でみるみるうちに治療されていく。確実に治療魔術で自分の傷を癒しているのだ。
まさか魔術まで使ってくるとは、厄介だなぁ、とエルの考えを見透かしたように、マンティコアはにやりと邪悪にほほ笑む。
《治癒魔術とか反則すぎんか!?》
「ガァアアア!!」
マンティコアは吠えると、魔術によっていくつもの火球を作り出して、それをエルへとぶつけてくる。エルはとっさに回避したり、石壁を作成してその火球を防御するが、その火球が石壁に当たった瞬間、火球は爆発して周囲に火炎を撒き散らす。
あれはただの火球ではない。命中すると爆発して周囲に爆炎を撒き散らす《爆発火球》の魔術だ。ええい、厄介な、と思いながら、ユリアたちは石壁に隠れながらクロスボウや弓矢の攻撃を仕掛けていくが、マンティコアはそれをヒョイヒョイと回避していく。
『………(ちらっ)。』
そんな中で、エルはユリアに対してちらりとアイコンタクトを送る。それを感じ取ったのか、ユリアもこくりと頷く。
そして、それをきっかけにして、一気にマンティコアは、エルの元へと突撃してきた。
「《透明化》ッ!」
それを見て、ユリアは、エルに対して幻覚魔術の応用である透明化の魔術をかける。
それと同時に、まるで光学迷彩のように、エルの肉体は周囲の景色と同じになり、まるでいきなり透明になったようにマンティコアから見えてしまう。
「!!?」
飛びかかってきたマンティコアに対して、透明化したエルは、そのまま床に張り付くようにひれ伏し、突っ込んできたマンティコアをやり過ごす。
跳躍したマンティコアは、そのままエルたちの真後ろ、つまり火炎を吐くレリーフのある廊下へと転がりこんでしまう。
『今だ!石壁解除!!』
それと同時に、エルはレリーフの前の火炎を防いでいた石壁を解除する。
当然、左右のレリーフからの猛烈な火炎はマンティコアへと襲いかかる。
その猛烈な火炎に肉体を焼かれ、マンティコアは苦痛に叫びを上げた。
《ヒューッ!!》
《やりますねぇ!!》
《息の合ったコンビネーションすぎて我嫉妬》
『ワハハ!どうだ!マンティコアの丸焼きじゃ!!勝ったな風呂入ってくる!!第三部完ッ!!』
《第三部って何だよ!!》
《油断するなバカドラゴン!!》
それを裏付けるように、燃えながらもマンティコアはまだ生存していたのだ。炎に焼かれながら、マンティコアは彼らに対して牙をむいた。
-------------------------
お読みいただきありがとうございます。
面白いと感じていただけたら、☆☆☆やフォローをいただけると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます