第30話 こんな状況でも食事は大事!

 とりあえず巨大コウモリを倒したエルたちだったが、それでもこの階層が光のない暗闇の階層であることは間違いない。

 そして、こういう時に気を付けなくてはいけないのは、やはり罠である。

 ただでさえ暗闇で見えない所に凶悪なトラップがあればそれだけで引っ掛かりやすいのは至極当然である。

 とりあえず、6フィートの棒に対して魔術の光を灯し、さらにユリアはランタンを用意し、少しでも光量を確保して罠を探りながら巨大コウモリの死体をそのままにして、さらに奥に進んでいく。

 と、そんな中、レイアは異常な状況を発見して止まってほしい、とエルたちに指示する。

 それは、左右に無数の口を開けた人の顔のレリーフが存在していた。

 恐らくは、この口から矢か何か魔術を放出してくるのだと思われる、とレイアはエルに伝えていく。


『ふむ……。それじゃこうやってみようか。《石壁作成》!!』


 エルはそういうと、左右の無数のレリーフの前に石壁を作成していく。それと同時に無数のレリーフの口から強力な火炎が吐き出される。

 だが、その火炎も石壁に防がれて見事に弾き返されていた。


『よし!今のうちだ!通り抜けるぞ!!』


 石壁がレリーフの炎を防いでいる間に、彼らは一気にその場を通り抜けていく。

 それを潜り抜けながら、小型化したエルはそれはそれとして……と通り抜けた後で、安全な場所を確保し、ユリアの荷物から保存食である固いパンと固いチーズを取り出して、それをパンに乗せ、こっそりと戻って熱さで熱せられた石壁に近づける。

 余熱でいい感じにチーズが溶けてきたのを見て、エルはそれを口の中に入れて、むしゃむしゃと食事を楽しむ。


《この状況でメシ食うか普通!?》

《この爬虫類、頭おかしいんじゃないの!?》

《いきなりメシを食うなメシを。》


 至極常識的なコメントの突っ込みを送ってくる人々に対して、エルは食事を取りながら反論をする。


『やかましい!!竜は体力消費を補うために大量の食事が必要なの!?これは仕方ないことなの!!これだけの熱があれば料理にも使えるだろ!?』


《いや、その発想はおかしい。》

《前から思っていたけどコイツ面白ドラゴンすぎでしょ!》

《ユリアちゃん!突っ込みをしてあげて!コイツ頭おかしいわ!!》


「いやですが戦いで魔術連発している以上体力回復は必要では?竜様がこちらの主戦力ですし……。」


 それは……そうなんですが……でもやっぱりおかしいでしょ!!という突っ込みをスルーしながら、レイアが周囲の状況や罠の確認を行い、ある程度の安全地帯を確保しつつ、ユリアは干し肉とパンを用意すると、小型の鍋に水魔術で水を出す。

 エルの魔術なら簡単に調理はできるが、彼の魔力・体力回復のためにはそれは本末転倒だと判断したのだ。

 そして、その鍋に干し肉、パン、香草、塩などを入れて、熱をもっている石壁に近づけて、その余熱で温めてシチューを作る。

 そして、石壁の余熱でIHヒーターの応用で暖められたシチューは、いい匂いを立てて食べごろになったので、ユリアはそれをそのままエルへと差し出す。


『う、うまい!!やっぱりシチューは最高やな!これで魔力も体力も回復……したような気がする!!』


ガツガツとシチューを犬食いするエルに対して、ニコニコとそれをユリアは見ているが、その匂いを感じてか、どこからかまるで獣のような叫び声が響き渡った。


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