独り立ちを強いられたドラゴン、生き延びるために配信者の前でお腹見せゴロンしたら伝説になったようです。

名無しのレイ

第1話 生き残るためにプライドを捨てます!!

 その時、ダンジョン配信者、ユリアはこれ以上ないピンチに陥っていた。

 瀕死の重傷を負った助手、そして同じように重症を負った自分。さらにそれらを全て吹き飛ばすほどの圧倒的絶望。6mほどの巨体をした強靭な四肢、巨大な爬虫類に似た存在。


(ドラゴン!!ダンジョン探索最強の幻獣!!)


 もはやここまでか、と覚悟した瞬間、突然ドラゴンは彼女たちに危害を与えるのではなく、その場にずしん、と寝転がった。


『くぅうう~ん。』


 威風堂々たる最強の竜族の一体は、いきなり子犬のように鳴いたかと思うと、ごろん、と彼女たちに対してお腹を見せてへそ天状態になったのである。

 それは明らかに命乞いのサインそのものだった。


「……は?」


 はっはっはっと舌を出しながら、無防備なお腹を空に向けて無防備さをアピールするドラゴン。おまけにお腹を見せたまま、ごろごろと転がる始末である。

 自分たちを叩き潰せるほどの力を誇る竜がなぜいきなりこんなことを行ったのか、その予想外の行動に、ユリアたちも視聴者たちも茫然としていた。

 なぜこんなことになったのか。話はしばらく前に遡る。



『……は~。ドラゴンに生まれた時はどうなるかと思ったが、なってみれば何とかなるもんだ。』


 地帝シュオールの大迷宮、そこを統べる地帝シュオールの息子エル。

 今こそドラゴンであるが、元は人間の転生者である彼はドラゴンへと転生していることに驚いたが、それでも親がエンシェントドラゴンであることもあって、それなりに悠々自適な生活を送っていた。

 流石に人間とか食事に出されたらどうしようかと思ったが、「人間は雑食で肉がまずい」という母親シュオールの元、何とかそれなりに過ごしていた中、母親からいきなりこんなセリフを投げつけられた。


『……という訳で、お主には独り立ちをしてもらおうかのぅ。』


 伝説の竜、エンシェントドラゴンロード。その中でも地帝と呼ばれる地竜トップクラスの竜。10mほどの巨体で頑丈な岩のような赤茶色の鱗に覆われたその肉体は、防御力に優れており、首回りの3対のヒレをドリル状にして地面を掘り進めることのできる彼女は、自分の息子に対してそう宣言する。


『待ってマミィ!!いきなり言うのは勘弁して!!』


 いきなりの独り立ちを告げられたエルは当然驚天動地である。

 いずれ独り立ちはしなければならないとは思っていたが、まだまだ先だと思っていた彼にとってはまさに予想外の出来事だったのだ。

 せめて、ある程度研修期間をかけて色々訓練した後で独り立ちさせてほしい、というエルの嘆願もあえなく却下された。


『という訳で、貴方には独り立ちとして私のこの大迷宮を攻略する権利を上げるのじゃ。大迷宮を攻略したらここは貴方のものじゃが、弱い竜に生きる価値はないのじゃ。さくっと死になさい。』


『待ってマミィイイイ!!いきなり独り立ちはやめてぇえええ!!』


 確かに母親の恩恵に甘えて、しばらくのんべんたらりんとしていたエルであったが、彼としても、まずはこの大迷宮で快適に暮らしていける環境作りを行い、その後でじっくりと竜としての自分のレベルを上げようと思っていたのだ。

「バロメッツ」と呼ばれる羊を果実として作り出す奇妙な植物。そして、それらを解体して調理してくれるストーンゴーレムの作成。

 そして、調理用の岩塩をシュオールに頼んで、大迷宮の奥の岩塩を発見した場所から転送してもらえる魔法陣。

 さらに第三階層に用意してもらった、巨大な水場。ここには様々には海産物や魚たちも多数存在し、同時に彼の水を飲む水場である。

 まずはこういった拠点を用意する。竜の感覚なら十数年ぐらい問題ないだろう、と踏んでいたが、シュオールは思いのほか短気だったらしい。


『まあ、ともかくお主は尻に火が付いたほうが頑張れるタイプじゃろうし、きちんと食糧が調達できる場所は用意した。あとは頑張って攻略してくれないと困るからのぅ。それじゃアディオスじゃ!!』


 それだけをいうと、シュオールは瞬間転移でその場から姿を消していった。

 思わず、(待ってぇええええ!!)とストップをかけたいエルだったが、それも間に合わずシュオールは瞬時にどこかへと姿を消していった。


『はぁ……。仕方ないかぁ……。ともあれ、拠点地ができているだけでもヨシ!とするかぁ。これから少しづつ探検していこう。』


 大迷宮はシュオールが管理を行っており、彼女がその制御権を全て有している。

 それを丸ごと譲るのではなく、大迷宮を攻略することによって少しづつ制御権をエルへと渡していこうというのだろう。

 何でも人間たちもこっそりと入り込んで大迷宮の攻略を行っているらしい。

 そして、最近ではピクシーに魔道カメラを持たせてダンジョン攻略を配信するのが流行しているようである。


(まあ……。正直竜語魔術でハッキングしてそういう配信をめっちゃ見てたし……。スマホもインターネットもないこの時代、娯楽なんてほとんどないし。

 それがきっかけでマミィに独り立ちしろ、と言われたかもしれないけど……。)


 とはいえ、大迷宮に侵入しているのは人間だけではない。エルからすればゴキブリともいえるゴブリンどもも大迷宮に侵入しつつある。

ゴキブリどもに自らの拠点地を食い散らかされたらさすがに切れない自信がない。

自らの拠点地を守りながら、大迷宮を攻略しなくてはいけないのは頭の痛いところである。そして、そんな中、第一階層に張っておいた警戒用の結界が反応する。

これは、何者かが自分の拠点地の近くに入ってきたということである。


(まーたゴキブリ……もといゴブリンどもが巣穴に入ってきたのか。わざわざドラゴンの住処に入ってくるとかアホちゃうか?)


「ド……ドラゴン……!!?」


 確かに、瀕死の女性冒険者に、大怪我を負っている女性冒険者二人。

 エルならば、そのまま前足で踏みつぶすなり、食い殺すことなりは実に簡単である。

 だが、問題は彼女たちが配信者であることだ。

 彼女たちのカメラの後ろには数千人、数万人の人々の目があるのだ。

 そんなところで彼女たちを踏みつぶしたり、食らってしまってみろ。

 絶対に許さんとなってしまい、人間社会を敵に回してしまうことは間違いない。

 エルも元は人間だった以上、人間社会の強さは身をもって知っている。

 単体では弱いが、人類の敵と認定されたらどんな手段を使ってでもこちらを葬るだろう。


(こうなったら……食らえ!!我の必殺技!!)


 必殺技、ごろんと寝転がってお腹見せ!!

 おまけにクゥンクゥンと哀れっぽく鳴いてやるぞ!!ふははは、どうだ怖かろう!!我のプライドの捨てっぷりが!!


「……は?」


 《は?》

 《は?》

 《わんこを飼っている俺には解る……これは敵意のない事を示すポーズ!!》

 《最強の幻獣くんェ……。》


 女性配信者たちや見ているユーザーが呆然としているなか、エルはお腹を見せながら彼らに対して警戒心のないことをアピールするために、寝転がったままぐねぐねと体を動かす。


(うおおお!見ろ!我のへそ天っぷりを!!ごろごろ寝転びもしちゃうもんね!!あっこれ翼が痛い!)


 猫みたくへそ天ポーズをとったり、ごろごろ無防備に寝転びながら必死で害はないよアピールをした成果か、彼女も何とか警戒を多少は解いてくれたらしい。


 《なんでこいついきなり降伏モードに入ってるの?意味分からないんだけど?》

 《最強の幻獣の誇りはどうした。》


ともあれ、彼の冒険はこうして始まったのである。


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