AIと行く、星間貴族の傭兵生活
神風型駆逐艦九番艦
プロローグ 華族(笑)に転生!
突然だが自分という存在は死んだらしい。
もちろん死亡した瞬間なんぞ覚えている筈もなく、眼前に浮かんでいる喋る不思議な発光体によればそうとのことだ。
とても信じられない、信じたくはないことだが、やけに現実味のある真っ白な空間へ飛ばされていたことから事実だと受け入れざるを得ないだろう。
「え、えと……これからは自分はどうなるんでしょうか?まさか天国?それとも地獄行きですか?」
ビク付きながらそう聞いてみると、返ってきた言葉はとても予想外のものだった。
『いいえ、貴方にはこれから異世界に飛んでもらいます。他人の身体に憑依するという形で。』
「へ?憑依?つ、つまりは転生……ですか?」
『はい、そういうことです。貴方の元居た星にあった娯楽コンテンツの一つと同じようなものかと。』
そのことを聞いて気分は不安から一転、自身の身体全体が歓喜に打ち震えるのを感じた。
アニオタなら誰でも一度は憧れた転生。
遂に自分の番が来たというのなら喜ばない筈がない。
「そ、それでどういう世界に行くんですか?」
『行き先は貴方が決めます。時代背景と社会的地位、1つの特典を、貴方が要望するものを言ってください。こちらはその希望に沿って近い条件を数多の世界から割り出します。』
「本当になんでも良いので?」
『ええ、もちろん。中世の王族や豪商、近世の政治家や軍人、未来世界の文明人など、どんな希望でも承ります。宇宙一のお金持ちなんてのも可能です。』
「へ、へぇ……それで特典ってのは……。」
『特殊能力や好みの女性、動物、物、武器、望む物を何でも一つお与えしましょう。」
「なるほど……。」
まさに至れり尽せりとはこのことだろうか。
自分の理想の世界へ飛べることにワクワクしながら希望する条件を考えていく。
そして色々考慮した結果、無難なところで抑えることにした。
希望した地位は貴族、文明は人類が宇宙へと進出した時代。
これは単にお金持ちの特権階級になりたいということと、前世以上の娯楽が溢れているであろう未来に興味を持ったからだ。
もうひとつ、特典に関しては高性能なAIにしてもらった。
能力でも良かったかもしれないが、文明の発達した世界では前世がそうだったように腕っぷしより知識量が多い方が利益になる。
きっと悪い結果にはならない筈だ。
『承知しました。条件に一致する世界があります。憑依するのは星系ひとつを収める貴族の1人息子、転移先は次元跳躍による銀河間航行が可能になった世界、転生特典は高性能AI。確認ですが、これでよろしいですか?』
「はい!お願いします!」
『承知しました。では、転送を開始します。』
発光体がそう言うと同時に徐々に視界が白ずんでいく。
そして次の瞬間、ブレーカーを落とすようにバツン!と辺りが真っ暗になり、自分の意識も闇へと落ちていった。
⬛︎
『…………きてください。起きてください、ご主人様。』
「ん……あ……あ……?」
誰かの甲高い声が聞こえてくる。
というより脳に直接語りかけてくるような変な感じだ。
『脳に直接語りかけています。それより早く起きてください。』
「あ、ああ……うん……。」
柔らかい感触を背中に感じながら体を起こす。
すると視界に入ってきたのは綺麗な装飾が施された家具類と真っ白な壁……ではなく前世のキャンプ場で見たログハウスのような木造りの内壁だった。
しかしその木目調の天井や壁はくたびれており、周囲も薄暗くて埃っぽい。
何と言うか、とても貴族が使うとは思えない場所だ。
「えっと……取り敢えず君が特典のAI?」
『はい、ご主人様。分からないことがあれば何なりとお申し付けください。』
「ああ、よろしく。それで早速なんだけど、今はどういう状況?」
『ここは秋月家が所有する邸宅の中です。宙域図で表わすと現在地はここです。』
「え……わっ!?」
突然視界一杯に映し出されたのは太陽系のような星系を表した図と、そこの青い星を指す1本の矢印。
まさかこれはアニメや漫画のワンシーンに出てくるような、いわゆる『ステータスオープン』と同じ原理で空中に浮いているのだろうか。
早速現れた異世界要素に心を踊らせるが、そこへ冷静なAIの指摘が入る。
『いえ、これはご主人様の網膜に直接映像を投影しているだけです。魔法の類いではありません。』
「ですよね……てかそれより心を読んでくるのね、君。」
『はい、私の本体はご主人様の脳内に埋め込まれており、一体化しています。なのでご主人様の思考や五感にアクセスすることが可能です。』
「え……ええ?ま、まじかよ……。」
いきなりの事実に頭を抱える。
そもそも予想していたのは美人なロボットとかそういうのだったのだ。
こちらの思考を読んだのか呆れるような声が返ってくる。
『それならAIではなく自律思考型の女性アンドロイドと答えるべきでしたね。』
「うぅ……また読まれてるし……。」
実体が無いのはしょうがないとして、またもうひとつ問題があることに気づく。
それはプライバシーの消滅だ。
今後少しでも変なことを考えればコイツに筒抜けになるのである。
今も思考を読み取ったのか、彼女が言葉を返してきた。
『別に私はご主人様の考えを外に暴露したりはしません。まず発声機能がついていないから不可能です。』
「でもさぁ……まあ今はいいか。それよりここがどこかの惑星だってことは分かったけど、なんて国に居るんだ?」
嘆いていてもしょうがないとベッドから降りつつ、ふとそう聞いてみる。
そしてコンマ数秒後、返ってきた言葉に絶句した。
『名前はありません。というよりも国がありません。この星の人間はご主人様しか居ませんから。』
「……は?どういうこと?」
衝撃的な発言に脳が混乱し、本気でフリーズする。
『ここは去年より、正確には4ヶ月と6日前に勲功華族となった秋月家への新たな領地として陛下より下賜されたばかりです。その為、開発も全く進んでおりません。』
「俺以外には誰も居ないの?」
『はい。』
「領民も?家族とかは?執事は?メイドさんは?」
『ご主人様が憑依した
「まじか……てかこの身体、元々死んでたの?」
『はい、女神様が白骨化した肉体を再構築し、貴方の魂を埋め込みました。』
「そ……そうなんだー……。」
今まで眠っていたベッドを振り返ってみる。
すると薄汚れた白いシーツの真ん中には人型の黒い跡がついていた。
言わずもがな、腐敗した人間の死体から滲み出た液体が乾いた跡だろう。
「う、うそだろ……嘘だよな……!?」
小走りにその場を離れると軋む階段を降りて1階へと到着する。
寝室と同じく荒れたリビングを通り過ぎ、玄関らしきドアを見つけると勢いよく開いた。
「嘘だと言ってよ……。」
目に入ってきたのは家の敷地内に植えられた木々とその奥に広がる広大な野原。
外に出て息を吸えば、綺麗な空気が肺一杯に入り込んでくる。
非常にのどかな場所ではあるが、逆に自然しか無く、未来っぽさは欠片もない。
「ねえ……ちょっと違くない?」
『何がですか?』
「俺が女神に対して希望したやつと……。」
『いいえ、ご主人様がおっしゃられた希望とは一致しています。社会的地位は星系ひとつを治める貴族の一人息子、文明レベルは人類が宇宙へと本格的に進出した世界、特典は高性能AIである私。何の不備も無いと思われますが?』
「あるよ!いや、無いのかもしれないけどありまくりだよ!」
頭を抱えて思いっきり仰け反る。
まさかの何も無い星へ単身リフトオフ。
絶望しない筈がない。
『女神様は嘘をついていません。せめてご主人様が家の経済状況や貴族間での立ち位置、家族構成やその関係などを具体的に細かく示せば良かったのです。』
「うそぉ……。」
『嘆いていても仕様がありませんよ。それよりも夜になる前に色々とやるべきことがあります。』
「もしかして最低限のインフラすらも無い感じ?」
『はい、なので火と水、食料の確保が先決です。』
「……分かった。」
『安心してください。高性能AIであるこの私の言う通りにすれば何も問題ありませんから。』
「頼りにしてるよ……。」
言われるがままにトボトボと歩き出す。
この日より、1人と1体の生活が始まった。
⬛︎
俺は食料や水を確保しながらAIに色々なことを聞いた。
まずこの世界での自分の名前は『
勲功華族、いわゆる出来立てほやほやの貴族の一人息子で、学才や技能で特に秀でた面は無かったらしい。
彼の両親は既に事故で亡くなっており、遠い親戚は居ても面識の無い者ばかりのこと。
つまりは自分が入れ替わっても怪しむ者は皆無というわけだ。
それで次に外界のことについてだが、まずこの星系が属しているのは天の川銀河に跨る『
天皇を中心とした国家体系を敷いており、その下に華族と武家、臣民の順番で構成されている。
まあこれに関しては異世界アニメに出てくる王様が天皇に、貴族が華族、騎士が武家に変わったと考えてくれればいい。
ちなみに魔法という概念はしっかり存在しているようで、科学と並行してこの世で幅を利かせている。
ただ余りにも科学技術が発展しているおかげで、異世界アニメほどバカスカ活躍しているわけではないとAIは言っていた。
どちらかと言えば民生品として人々の生活に役立っている方が多いようで、今も家の中には魔石で動く発電機がある。
そして最後に一番重要なことなのだが、この世界の人間は何と寿命が阿保みたいに長いとのことだ。
その理由が遺伝子改良のおかげで一般人ですら平気で数百年生きることが可能らしい。
そのため16歳の俺はこの世界で言うところの児童みたいなものだという。
確かに言われてみれば16にしては身体付きが幼すぎた。
高校生というより小中学生と言った方が適切だろう。
「で、これからどうするんだ?」
『それはご主人様が考えることです。』
「んなこと言われてもなぁ〜……。」
時刻は夜、なんとか電気と水、食料をゲットすると軽く片付けたリビングの中で椅子に腰掛けていた。
目の前のテーブルには非常用として備蓄されていた水と携帯食料の山が。
しかし軽く見積もっても1週間の分だけ。
この期間の間に何か行動を起こさなければ餓死の確率が飛躍的に高まる。
一応このAIとやらが居るから農業や食料採取も不可能ではないのかもしれないが、未来の世界に来てまでして農家はやりたくはない。
「あ〜……何をするかねぇ……。」
『まずは何か大きな目標を作ってみては?せっかく領地は星系ひとつ分もあるのです。好きなことは幾らでも出来ますよ。』
「なら領主らしくこの星を発展させるとか?」
『ええ、良いと思います。ですがもっと具体的にしてみては?どう発展させるかや、発展させてどうするか、などです。』
「うーん……具体的にねぇ……。」
俺は唸りながら頭の中に幾つかの案を思い浮かべる。
するとAIがその中から目ざとく1つの考えを引き出してきた。
『……なるほど、最終的には平均以上まで発展させて、自分は豪邸で容姿端麗な女性を周りに侍らせたいと。とても雄らしい夢ですね。』
「なっ!?ば、馬鹿!変なのを引っ張り出すな!」
『いえ、明確で本能に直結した揺るぎない願いですから良いと思います。現時点での最終的な目標はそれにしましょう。』
「うぅ……ちくしょう……。で、でもどうやってそこまで発展させるんだよ?会社にここを売り込むとか?」
『残念ながら企業が食い付く旨味のある物はこの星には無さそうです。それに資源惑星は元々腐るほどあります。まず見向きされないのがオチでしょう。』
「ならどうするんだ?」
『そうですね……私の考えを言うなら……。』
再び網膜に何かの画像が映し出される。
そこにあったのは宇宙を翔けるロボットや艦列を組んで砲撃を行っている戦艦の姿が。
「これって……。」
まさか武勲を立てろとでも言うのか。
戦いなど欠片も経験したことのない、パンチの打ち方すら知らないこの自分に。
『ええ、その通りです。武勲を立てれば必然と周囲から注目され、褒美も獲得出来ます。それを元手に開発なり起業なりを始めればいいのです。』
「戦うってことは……まさか軍隊に入れと?」
『違います。それでは時間がかかり過ぎます。』
「でも戦わせる軍隊なんか持ってないぞ。秋月家の私兵の数はゼロでしょ?」
『戦力ならここに居ます。人間の男1人と人工知能1体です。あとなにも戦争へ行けとは言っていません。まず戦争なんて早々起きないものですし、武勲を上げることが出来る場所はそれ以外にもあります。』
「戦争以外で出来る……?」
頭を捻って考えてみると、とある単語が浮かび上がってきた。
警備員、賞金稼ぎ、PMCなど。
いわゆる戦ってお金を得る仕事だ。
『そうです。個人傭兵なら私達だけでも大丈夫ですし、功績によっては一気にランクアップ出来ます。ある程度まで行けば私兵を持つことも可能な筈です。』
「なるほど……その前にまず戦う武器とか船は?」
『ここのガレージに小型の宇宙船があります。武器は現時点では私のみですが、それは現地調達しましょう。』
「分かった……あ、でもさ……。」
とんとん拍子に傭兵になって戦う方向へ話が進んで行ったが、遅まきながらに不安や恐怖を感じた。
戦うということは言わば殺し合いなのだ。
下手をすれば初陣で即死も有り得る。
やはりもっと別の方法を考えようかと思った時、思考を読み取ったのか彼女の自信に満ち溢れたような声が聞こえてきた。
『ご主人様、貴方の命は私がお守り致します。だから何も心配しなくても大丈夫です。』
「守るったってどうやって……?」
『高性能すーぱーAIであるこの私が全力で補助させて頂きます。射撃、格闘、魔法、操縦、ありとあらゆる分野において。』
「そう……か、なら頼りにしてるよ。」
『ええ、期待していてください。では今日はもう寝ましょう。明日から行動開始です。』
「はいよ。」
俺はベッドに横になると目を閉じた。
未知の世界への期待と不安に心を一杯にしながら。
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