八周目
第一話 カワラズ
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
新たな人生が始まるとき、飽きるほど聞いたその言葉。
この繰り返す世界で、唯一変わらない光景。
(……俺も、これで最後か)
これも二度と見えなくなると思うと、少し寂しく思えた。
〜〜〜〜〜〜
「ご飯、俺が作っとくから」
「なら早くして」
何周か振りに、俺は真面目に親元で過ごす選択をした。
改めて本当に酷い親だと思う。共に本心では無関心で、違うパートナーを作ろうとしている。
「よくこんな料理出そうと思えるわね」
「そう言わないで、息子の教育に悪いだろう」
結局、俺は料理が上手くなれなかった。
愛情という調味料が足りないからだろうか。根本的な原因が分からない以上、元から才能が無かったのだろう。
(……これで最後なんだ)
だからこそ、もう出て行く意味もない。
音無家には、確かに俺が居たということを残す。何度も出て行った分際で虫の良い話だとは思うが、これが俺の精一杯の選択なのだ。
〜〜〜〜〜〜
「よっ」
小学校に上がった俺は、二人きりになるタイミングを見計らって七瀬に接触した。
「カチナシ一人?」
「そりゃあ、な」
「ふぅん。もしかして寂しくなっちゃった?」
「否定はしないよ」
哀愁と共に返すと、彼女はつまらなさそうに口を尖らせる。
「その様子じゃ、結婚したんでしょ。パートナーが居なくなった気分は?」
「最悪。殺されたしな」
「え?」
「次の私は愛さないで、だってさ。つまりはそういうこと」
「うっわぁ、昼ドラでも無いわそんなん」
七瀬はドン引きしているが、これで良いのだと俺は確信している。
「で、どうすんの。殺した相手に復讐でもするって?」
「それなんだけど。もう俺の未練は、全部完遂されたみたいなんだ」
「どういう意味?」
「前世で莉世に殺された直後。この世界の神みたいなものに会ったんだ」
「死んだら聞こえてくるアレ?」
「うん」
今際に聞こえていた声の主。それは俺と同じ姿をしていた。
何も無い白と黒の混ざった空間に座すのみだった奴は、開口一番に俺の贖罪について述べる。
『貴様は罪を理解し、贖罪を果たした。よって此処に赦しを与える』
罪って何だ。元はといえば、俺にクソみたいなカードしか与えなかったのがいけないんだろう。
あんな罰ゲームみたいな人生を送らされりゃ、自らリタイアしたくもなる。
『八の機会を以て、其の魂を輪廻へと戻そう。残り、与えられし生を好きに過ごすが良い』
好きに過ごしていいなら、もういっぺん自害しても良いのか?
世界のシステムか神みたいなツラした奴に吐き捨てるが、解は返ってこない。こりゃ自動音声みたいなものかと、俺はため息をつき。
『まだやり残したことがある。知ったような口を利くな』
全身の皮膚が捲れ上がりそうなほど負の感情を剥き出して吐き捨てたと同時に、赤子へと戻ってしまったのだ。
「つまり、ワタシも七周目が終わったら」
「神サマと御対面だろうね。呪詛の一つでも考えとくと健康に良いよ」
「不健康なこと勧めるとか、お前性格ホント最悪だな」
「それ、お前が言えたことか」
この軽口に恨みの感情はない。コイツは、あのクソッタレな神サマや、アバズレの七瀬美香とは違う。
そう、違うのだ。彼女は俺にとって七瀬であって、七瀬美香ではない。
「……助けたい、とか吐かすんでしょ」
「ああ。輪廻って奴に組み込まれたんなら、『花宮莉世』は……また自ら命を断つ」
そうなったら、莉世がようやく掴んだ人生を棒に振ってまで、俺を殺した意味がなくなってしまう。
「まったく。何となく、お前の考えがわかるようになってきちゃったじゃん」
「そっちこそ。俺を呪い続けてくれたおかげか?」
「言っとけ。ワタシ様の未練をやりやすくするためだ」
俺たちは、渇き軽くなった笑みを返しあった。本当に、コイツには頭が上がらない。
「場所はわかってるんでしょうね?」
「相手もしっかり頭に叩き込んである。それに、アイツのオネダリを聞きまくってもきたしな」
よしっ、という掛け声と共に立ち上がる。
何遍も繰り返した人生で様々なものが変わったが、俺の芯は決して変わらない。
俺に優しい人は幸せにする。だが俺を貶める奴らは、皆不幸にしてやる。
当然、それは俺の愛した人を傷つけた奴も同じだ。
「莉世の最後のオネダリ。叶えるとしますか!」
本当に最後の未練を晴らして、俺の人生はハッピーエンドだったと言い切ってやる。
〜〜〜〜〜〜
それから準備をすること約三年。
「な、なんだあっ!?」
俺は花火を詰めに詰めた爆弾で、
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