狩人二人
「アタシのこのふざけた名前は命名権をウィンチェスター社に売りに出して得た名前なんだよ。この前教えた鉄砲の部品名称それをテキトーウに並べただけさ。元は名無しでね。親の顔なんか覚えちゃいねえし、なんなら木の洞から這い出て生まれてきたと思ってるんだ」
「やめてください
「なんだよ釣れねえじゃねえの愛弟子よ」
「
「鉄火場で大事なのはリラックスだぜ。力むなよ。肩を揉んじゃる」
「尻を揉まないでくださいまし」
「オメッ! ナイフを師匠の目玉にぶっ込もうとすんじゃねえ! 知ってるか!? ナイフは刺さると痛えんだぞ!」
姫様が屋敷をお発ちになり五年経ちました。
いま私が仕えるのは世界一の色ボケ馬鹿女です。
「おっと
シアーが指差す先に動く影へ銀製のナイフを投擲します。
断末魔。
「よくやるよお前は。九十ピエ(三十メートル)は離れてんぜ」
「鉄砲は嫌いですので」
「それアタシのこと言ってる」
「いいえ」
「ほんっとに釣れないねーダフネやい」
「こういうのがお好きなんでしょ」
「非常に好ましい……ん? 舌打ちしたか?」
「鳥でも鳴いたのでしょ」
「月夜に鳥は飛ばんだろ」
ピレネー山脈に根ざす深い森のなか、軽口を叩きながら仕留めた獲物を確認しにゆきます。
「よいしょ」
ズドンとシアーが念押しの一撃をウィンチェスターライフルから放ちます。
「ボルトアクションが使いてえ」
「その節は姫様が腕を
「いやいいさ。ありゃアタシの不注意てなもんよ」
ウィンチェスターライフルの弱点は扱う弾の小口径にあります。
ボルトアクションライフルであれば口径の大きな弾を打ち出せますが、片腕ですと装弾の操作に難がでます。
化物狩りにおいて隙をつくるのは得策にありません。
火力と操作性を天秤にかけたシアーは泣く泣くウィンチェスターライフルを使い続けています。
「ところでダフネ。コイツの顔に見覚えは」
吸血鬼の眉間に刺さった仕事道具を回収しつつ面相を確認します。
「貴族では無いですね」
「新顔か……やっぱ最近増えてんな」
「そのようですね」
「このままだと今季の予算から足出ちまうか……不味いなあ」
「夜遊びをお控えになられれば良いのです」
「遊びじゃねえよ情報収集ってえ大事な大事な段取りだってあれほど」
「新人娼婦の体型が狩の役に立つとおっしゃいますか」
「これほど狩に重要な情報がどこにある!」
「私の夜伽では満足できないのですか」
「それとこれとは別腹だろうが!」
あまりにも馬鹿馬鹿しく低俗なやり取りの応酬で、深刻な状況が有耶無耶になりそうです。
軌道修正をば。
「新人娼婦もとい、新顔吸血鬼が増えてきております。増援もしくは予算の増額申請を致しますか」
「そうさな増援は分け前が減っちまうし連携を乱されるのも癪だしな、かといって予算を増やしてもな。結局のところ報酬も予算も出てる財布同じだしな。減るんだよな報酬が」
「しかし生存確率は上がりますよ御師匠」
「命あっての物種とはいえ……うーん。金物屋の爺もまけちゃくれねえし」
「では今夜の夜伽は私が致します」
「誘い方が円滑過ぎるだろ。色気を大事にしろ」
「罠は退路を断つように置くのが狩人の基本だと教わりました」
「そんなけしからん技を教えた馬鹿はどこに居やがる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます