人体標本/空木アヅ

@u2_az

(こころです。おはようございます。からだです。)

いつまでも晴れた世界で生きている写真に残る人を旅する


陽をあびて、つむじ 身体の中心に常に嵐を飼うけものたち


髪に降る雨の形を確かめる傷つくための針ならほしい


まゆ、まつげ、まぶた、まなじり 眩しさに負ければ守れないものがある


ただそこに木漏れ日ひとつあるように視線、誰のものにもならない


ため息が鼓膜にふれる距離にいる これはさみしいときの耳打ち


口づけのたびに寄せては引いてゆく互いの裡の果てなきバベル


数字では会話をしない場所にいて くちびるにそれぞれのララバイ


窓越しのあくびに暇な店員は夕暮れだけを迎え入れる


喉仏震えるたびに天上に残した罪の重さを思う


首すじに熱い涙を弾けさせ生きる 人の七割は水


雑踏の中で偶然すれ違い肩がぶつかるようにおやすみ


心臓が2つあったらいいのにね 愛はひとりでには生まれない


祈るたび誰かと寄り添えるように腕はひとつにしてよ神さま


振るだけで挨拶になる手に香るスイートピーのハンドクリーム


あたたかな束縛 腕を組むごとに幸せに逃げられないように


爪を切る 髪を切る 生きる この身に刹那単位の死を抱えつつ


夜ごとにホモ・サピエンスの静けさに晒される生ぬるいくるぶし


ごめんって言われたくない 春霞白いかかとで踏み荒らすほど


屋根までを風に抱かれて石鹸玉 うまれなければ死ねない星で

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