VRかと思ったら異世界だった
@moffu
1-1:始まり
ゆっくりと目を開ける。すると目の前にはとてもゲームとは思えない、リアルな草原が広がっていた。さらには草の青草も感じ、風の音もする。今は昼の設定だろうか、日が高く少し暑い。
キョロキョロと周りを確認しながら少し前へ歩く。すると僕がいた場所が、標高が少し高い場所だとわかった。そして眼下には小さな町が見えた。
僕はその町まで、歩いたり走ったり、感触を確かめながら向かった。
僕が今やっているこのゲームは、屋内でやるバーチャル系のMMORPGアミューズメント、『異世界へ行こう』だ。
郊外にある、アミューズメントパークの一室でのみ遊ぶことができ、実際に体を動かして遊ぶことができる。
具体的には、グローブや腕、足などに取り付けた機器と、バーチャル画面を同期させる。そうすることで、剣を振ったり、敵の攻撃を転がってよけたりすることが出来るようになるらしい。
僕は昔からゲームをすることが好きだったから、このゲームもずっとやりたいと思っていた。でも、このアミューズメントパークで遊ぶには大金が必要になる。高校入りたての僕には、このゲームを遊ぶことは難しかった。
それでも僕がこうして、ゲームで遊ぶことが出来たのは、香という幼馴染のおかげだ。
香は小さい頃から一緒の学校で、親同士も仲がよく、たまに親連れで一緒に遊びに行くこともあるほどだ。
その香が、いつも家の中でゲームばかりいる僕を、『外に』連れ出して、『体を動かす』という名目で、親からこの場所で遊ぶ権利を得ることができた。
大分、親の思惑とはずれていると思うけど。
ともかく僕らは、そうして今ゲームをやっている。
ただ僕を連れ出した褒美というか、取引というか。香に突きつけられた条件は非常に厄介だけど…………。
しばらく歩いて山を降りると町の入り口前まで来れた。
僕のゲーム内での名前は、本名の今田秋からそのまま取ってアキとした。幼馴染の島野香もカオリという名前でゲームをしているそうだ。
待ち合わせ場所は始まりの町。先ほど眼下に見えたこの町だと思う。
僕は町の入り口である門をくぐって中に入った。
「こんにちは!!」
――っと突然、一歩門へ足を踏み出すと、目の前に小さな妖精が現れた。
「私は神様から、この世界を案内するように言われた、あなた専用の妖精です! 名前をください!」
「名前か……じゃあ、フェアリーで」
「フェアリーですね! ありがとうございます!」
なんのひねりもない名前にしたけど、妖精は喜んでくれた。
「何か困ったこととかあったら、いつでも話しかけてくださいね!」
「じゃあ、この世界のこと簡単に教えて」
「わかりました!」
そういうと、フェアリーは元気に話し出した。
この世界は魔国と呼ばれる魔族の王が統治する国と、人間の王が統治する複数の国で成り立っているらしい。
そして魔国は、魔物を支配下に置き、操ることで、人間の国々を次々に侵攻していった。
後に勇者が現れるまで、世界は魔国に脅かされている……と、有名なRPGに似た設定のようだ。
「わかった。じゃあ、次はこの町の地図が見たいんだけど、どうやって見ればいいの?」
「地図は買わないと見れませんよ?」
「そっか……」
地図を買う場所は聞けばわかるだろうけど、今は手持ちがない。
先にカオリと落ち合って、一度魔物を狩ってみることにした。素材なりクエスト報酬なりで、お金は手に入るだろう。
「じゃあカオリと連絡取りたいから、その方法を教えて?」
「カオリ……さんと連絡ですか? 待ち合わせとかしているんですか?」
「う、うん……?」
「じゃあ待ち合わせした場所に行くしかないですね!」
「ぇ……」
これにはさすがの僕も困った。
通常ゲーム内では、プレイヤー同士で音声やチャット、メールなどの連絡手段がある。でもこのゲームには、ないということらしい。
仕方がないので、僕一人でも狩れるか能力を確認することにした。
「えっとじゃあ、ステータスってどうやったら見れる?」
「すてーたす……ですか? すみません。なんのことかわからないです」
「す、ステータスも?」
地図を買うためにお金が必要だから、魔物を狩るしかない。
魔物を武器無しで戦えるか、ステータスを見て、攻撃力、防御力を確認したかったけど、ステータスの見方もわからない。
となると、魔物を素手で狩るのは少し怖い。武器は絶対必要だ。
でもそうなると、今度は武器を買うお金も必要になる…………。
現状、魔物を狩る以外で、お金を得る方法があるのかわからない。
僕はフェアリーにお金の稼ぎ方が他にあるのか聞いてみた。
すると、お金の稼ぎ方は現代と同じく、働けばもらえるらしい。そしてその仕事斡旋所が冒険者ギルドという所。
ギルドでは、魔物を倒して素材をギルドに売る以外にも、クエストという形で何でも屋も行なっているらしい。
ゲームの世界で働きたくはなかったけど、今はお金がほしいから働くしかない。
僕はフェアリーに頼んでギルドに連れて行ってもらうことにした。
フェアリーにこっちですよ、と町の中を案内された。
ギルドにつく間、フェアリーは町の説明をしていたけど、僕は話そっちのけで街の様子を見ていた。
街の中はいろんな人が往来している。
石畳の通路にレンガの建物。馬車が行きかい、露店で販売もしている。帯剣している騎士のような人や、篭を持ったおばさん。杖や槍を持った人もいる。
まさに想像した、RPG展開だ。
さらには人が暮らしている匂いまで再現されていている。家の窓から、なにやら甘い匂いがしてくる。
そういえば、ゲームに夢中で忘れてたけどカオリの姿を見ていない。
まだこの町に来ていないのかな?
「ここですよ!」
フェアリーは大きな石造の建物の前で止まった。木製の扉はすでに開放されてる。
僕は中の様子を伺いながら、おどおどと建物の中へ入り受付に向かった。
「初めての方ですね。ここにお名前お願いいたします」
ギルドの受付嬢はそう言いながら、僕にギルド入会の用紙とペンを渡した。
名前を日本語で書いて受付の人に見せるとそのまま受理された。
その時ふと、日本離れしたこの場所が、日本の会話や文字で通じていることに気づいた。
ここはやはり、アミューズメントパークのゲームの中なんだ、と現実に戻された。
受付嬢は僕を少し怪訝な面持ちで見ならがも、そのままギルドの使い方などを説明した。
説明が終ると、僕は早速クエスト掲示板へ向かった。
掲示板にある紙をはがして受付へもっていけば、クエスト開始になるらしい。
僕は掲示板から荷物運びの紙をはがして受付に行き、受諾してもらった。
そしてギルドを出てはっとした。早速クエストを開始したけど、僕ひとりでは地図もなく、道もわからない。
フェアリーに道案内が出来るか聞いてみると、できるという。
僕はフェアリーに案内をお願いして、どうにか荷物を受取人がいるところまで運ぶことができた。
その後はまた、街並みを見ながらギルドに戻り、クエストを終わらせた。
そして報酬をもらうと、お金は日本円ではなく、銀貨だった。
急にファンタジー要素だ。
フェアリーに聞くと、大金貨、金貨、銀貨、銅貨で分かれているらしい。
ただ名前は変わっているけど、それぞれ順に、一万単位、千単位、百単位、一単位となっているみたいでわかりやすかった。
ちなみにもらった金額は、銀貨6枚。この額は多いのか少ないのか。
フェアリーに聞いてみると、相場で一食分が大体銀貨5枚。宿は銀貨8枚だそうだ。
僕はこの話を聞いて、一瞬でゲームをやる気がうせた。
このままじゃ、クエストを消化するだけで一日が終わってしまう。ゲームで働くくらいなら現実でバイトしてた方がましだ。
それにしてもカオリは一向に来る気配はない。カオリはまだ、チュートリアルを受けているかもしれないけど……とにかく今はやる気がうせた。
一度セーブだけして、今はログアウトしようとフェアリーに聞いてみた。
「このゲームってセーブってどうするの? 自動?」
「せーぶ……ってなんですか?」
「え?」
一抹の不安がよぎる。
「ログアウトしたいんだけど」
「ろ……? ……すみません。私にはわからないです」
ちょっと待って。さすがにそれはないでしょ。って思ってVR機器を外そうと頭に手を伸ばしたけど、おかしなことにVR機器の感触がない。
そういえば草原のときはまだグローブをつけた圧迫感が手にあった。けど今はない。さらにブレスレットもアンクレットも……通信機器をつけている感覚がまるでない。
「……え? あれ? ち、ちょっと待って?」
「はい……? せーぶもログアウトも、なんのことなのかさっぱりです」
僕は愕然とした。これがバグであったとしても、機器が外せないのはいくらなんでもおかしい。
僕はそこで、以前カオリに借りたラノベを思い出した。異世界転生……いや、異世界転移だ。
「いやいやいやいや。ありえないぞ僕。転生とか転移とかそういう感じはなかった。ちゃんと使用許諾所にチェックしてゲーム設定した。それですぐこの世界来たけど、ちゃんと草原では通信機器の感覚あった。……本当にログアウトできないの?」
「たぶん……? 私にはさっぱりです」
「じゃあ僕はこれからどうしたらいいんだろ」
「ご主人は特性って知ってますか?」
「うん。ゲーム設定の時選んだから。盗賊だよ」
「ぁ……」
ぁ……ってなに。っと突っ込みをいれたくなる。いや、というか……、嫌な予感が……。
「と、盗賊っていいと思うんだ。アイテムを魔物から盗めるしさ?」
「それ……間違いでもないですが、正解でもないです。基本魔物はアイテム持ってませんし」
「え……」
どういうこと。設定する時、説明文にそう書いてあったのに違うっておかしいでしょ。説明文じゃないの?
「モンスターはアイテムを持ってはいませんが、体に刺さってる剣とかなら……取れないこともないです。あとは、冒険者が落としていったアイテムを拾って、巣に持って行ったアイテムとか」
「いや……ん? それ盗賊じゃなくてもよくない?」
「はい。盗賊の特性は……アイテムを盗むことなので、基本街の中で物を盗むことがお仕事に向いてるのですよ」
いやいやいやいやいや。それ、犯罪でしょ。は? え? は??
「ち、ちょっと待って。ログアウト……」
「……」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます