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  父と共に馬車でサンダーホーク邸に着くと門番と護衛騎士たちが揃って迎えいれてくれる。


「「「「「「「おかえりなさいませ!!お嬢様!」」」」」」」


 懐かしい面々が心からの笑顔で挨拶で礼をとってくれるのをみてレインティアは公爵家に戻って来れてよかったと思った。

 父が「婚約破棄されるような不出来な娘」と拒絶したりするような人だとは思っていなかったけれど、少しは不安を持っていたようだ。


 門から玄関ホールまで騎士たちがズラリと並んでいるのをみて、

「お父様?私の帰宅を知らせてらしたのね?」

 勢揃いに違和感を持ったので聞いた。

「会議のあとすぐにな」

「あら、お母様にサプライズにしたかったですわね」

「おお、それも楽しそうだったがそれをすると私はロザンナに嫌われてしまうから無理だな」


 現サンダーホーク公爵夫妻は高位貴族では珍しい恋愛結婚で、幼馴染で家格も派閥も釣り合っていたから特に軋轢もなく成婚し、今に至るまで幸せな夫婦だ。


「うふふ、お父様ったら相変わらずお母様に弱いのね」

「夫婦円満の秘訣は妻を怒らせないこと、夫は常に尻に敷かれることなのだよ」


 王宮の中で会う父はいつも厳格で近寄りがたい雰囲気で「あのクールさが良いの」などと侍女たちにモテているが、家の中では若干残念なくらい妻に甘いのをレインティアは幼い頃から見て来たので、尻に敷かれるどころか首を自ら付けた忠犬だと思っていたりする。


「それを聞かれたら三日は無視されましてよ」

「それはいかん!!」


 二人が仲良く話しながら歩いていると玄関の方から声が掛かる。


「もう!お二人ともお話は中でなさって!!」


 待ち構えてくれていた母が我慢できなかったようだ。

 父娘は少し歩を早めて進むと玄関ポーチに執事と侍従がズラリと並んでいて、真ん中に母と兄がいた。


「ジョシュアさま、レインティア、お帰りなさいませ」

「おかえり、レインティア。お帰りなさい、父上」


 母はレインティアをギュッと抱きしめた。


「やっと私の腕に戻って来たのね」


 兄リチャードはレインティアの頭を軽く撫でる。


「お疲れ様、良く頑張ったね」

「お兄様、ありがとう存じますわ」


 父と兄には執務中や王宮内で顔を合わせることも多かったが、母には王妃主催の茶会くらいしか会う機会がなかった。最近やっとレインティアが夜会に参加できる年になったので少し増えていたが多くを語れるほどの時間は無かった。


「さぁ中に入りましょう」


 母は潤んだ目元を少し歪めてレインティアを中に促す。


 玄関ホールの中には侍女やメイドが勢揃いで、王宮に着いてきてくれていた侍女たちもすでに戻って一緒に並んでくれていた。

「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」


 幼い頃から世話をしてくれていた乳母や侍女長、メイド長も揃い、後ろには料理長たちまで控えている。

 

「お嬢様のお部屋はすぐに使えますからね」


「ああ、衣装は母上が毎年新調しているから心配いらないぞ」

「リチャード!!」


 誕生日や行事には都度サンダーホーク家からドレス一式が贈られてきていたけどそれ以外にも用意してくださってたなんてとレインティアは涙ぐむ。


「せっかく誰がどうみても美人な女の子を産めたのにドレスを作る機会を奪われるなんて最悪でしたのよ!!」


 王子からは誕生日すら何も用意されず、王妃からは善意とはいえ王子、王家の色で誂えられた趣味じゃないドレスを山程用意されて着ないわけにもいかず。

 それを王子から「俺の色を纏いたいなんて浅ましいことだ」などと侮蔑された。

 執務時や普段着のドレスは動きやすい物がいいのでと王妃に断り自分の資産から用意していたが、人前に出る場面でバカ王子の色をとか罰ゲームが過ぎた。


 これからは好きなドレスを着られるのだと思うとムクムクと諦めていた色合いやデザインが浮かんでくる。


「お母様!私、新しいドレスを作りたいですわ!!」

「まぁあ!!良いわね!!早速呼びましょうね!お手紙を書かなくちゃ!!」

 お母様は侍女長を連れて行ってしまわれた。


「ティア、半日は覚悟しなさい」

「あーあ・・・」


 父と兄は二人ともしょっぱい顔になっていた。


 自室に戻ると婚約者として王宮に召し上げられる前と変わらず、薄ピンクを基調にした乙女らしい家具に壁紙のままだった。子供用サイズだったものは取り替えられ薄ピンク色から白になっていて、可愛過ぎない居心地の良い部屋だ。

 王宮へ着いて来てくれていた侍女のナーシャとネネがにっこりと私を浴場に誘った。

 

「お嬢様、せっかく時間が取れるようになったのですから」

「久方ぶりに全力全開~♫」


 メイドたちがいつのまにか増えてて、ドレスを、コルセットを、肌着を奪われて、生まれたままの姿で全身くまなく丁寧に洗われた。

 髪も肌も香油やクリームでしっかりエステをされ、マッサージもされ。


「王宮では仕事仕事仕事!!なんで未成年のお嬢様が下っ端執務官より残業してるのよ!!お嬢様の睡眠時間を確保するためにお嬢様の肌の回復タイムを取れなったんですよ!!」

「御髪だってせっかく美しいのに!!パックする時間も取れないなんて!!妃教育!?語学?帝王学?バカ王子の教育済ませてから言えよ!!!」


 二人がプリプリ怒りながらも施してくれる優しい動きがレインティアを癒す。

 王宮でもレインティアの代わりに二人が怒りをぶちまけてくれていたのでストレスが溜まらずに済んでいた。


「はぁーやっぱりレインティアさまは磨き甲斐がありますわ~」


 自分たちの手で艶々に仕上がったレインティアを二人は嬉しげに眺める。

 メイドがロザンナの用意したドレスを数着持って来てナーシャたちが吟味する。

 

 母が用意したドレスはどれも子供の頃に好んでいた薄紫や薄青で、デザインは大人っぽいものだけど懐かしく思った。

 王子の婚約者としては王子の瞳の色の赤か髪色の濃い金色(黄色に近い)物が用意されていて、王妃の好みか豪奢過て、プラチナブロンドでラベンダー色の瞳のレインティアにはあまり似合わなかった。

 

 着せて貰ったドレスは王妃の用意するドレスより腰回りに余裕があったのでいつもよりコルセットを緩めにしてもらえて、息が楽って素敵ね!と喜んだ。


 見栄のドレスからの開放感は、レインティアに取って印象に残る出来事だった。

 ヘアメイクもお化粧もドレスの雰囲気に合わせるととてもナチュラルに見えて年より幼く見える。


「私ってこんな顔だったかしら?」


「お嬢様はすっぴんが一番可愛らしいんですよ!!」



 夕食に呼ばれたので食堂に向かえば、父と兄は唖然としてレインティアを見た。


「本当に殿方は見てくれの印象に左右されやすいのよねぇ」


 母は呆れたように言うとレインティアを自分の席の隣に案内した。


「ティアは王子の色の衣装に合わせるために大人っぽいメイクをしていただけよ」

 さすがに女性なので衣装に合わせた化粧だとわかっていたようだ。衣装に合わせないと似合わなすぎてとても着ていられないほどとにかく派手だった。下品ではないけど、装飾が凝り過ぎて。

 それを王妃は着こなしているのだから可笑しなデザインではないのだとレインティアは判断していた。


「そうです!それに素を隠さないとあのスカポンタンがお嬢様に無体を強いそうだったので」

「!!!??」


 ナーシャが父たちの前でいきなり王子をスカポンタンと言い出したのでレインティアは焦った。


「「でかした!!ボーナスをやるぞ」」

「「ありがとうございます!!」」


 二人は父と兄に注意されるどころかご褒美を得ていた。



「ふむ、ティアの顔立ちは子供の頃とさほど変わっていなかったのだな」


 しみじみと呟く父にレインティアは「失礼な。成長して綺麗になったと褒めていただける程度には変わってますのよ」と思った。












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