箸にも棒にもかからない話

ハローハッピーワールド

タイムトラベル

梅雨までもう少しの春、夜になると肌寒い。そのジーパンにパーカーの男が話しかけてきたのは僕がコンビニを出たその時だった。


「俺の名前は遠藤未来男(えんどう みらお)。君の名前は今野今男。このループで32回目だ。君を助けに来た。君の袋の中にはおにぎりとポテチが入っている。歯磨き粉が切れているからそろそろ買った方がいい。よし、行こう。」


僕は不覚にもその男を信じてしまった。聞きたいことを全部言ってくれた。しかも歯磨き粉を切らしている。今までのループで僕に信用されるように最適化したとしか思えなかった。男は僕の手を引いて駅の方に向かっていく。


「君は今日殺される運命にあったのだ。そこで未来から俺が助けに来たわけだ。安心してついてきてほしい。」


みたいなことを言っていた気がする。電車に乗せられて中心街に向かっていく。と思ったら一駅で降りてしまった。言われたとおりにわざと遠回りしたしベンチで休憩した。時にはダッシュしたり鍵のかかっていない自転車をピンポイントでパクったりした。


スマホのライトを頼りに狭く暗い道を歩いている。川沿いのせいか蛙の声がうるさい。僕は未来男と雑談しようとしたが、そちらは僕に興味ないらしい。32回目だし仕方のないことだと諦めて無言で歩き続ける。


そのとき僕は足を滑らせて川に落ちてしまった。

驚いた。死ぬと思った。おぼれていく中、視界がコマ送りみたいに遅くなる。むちゃくちゃな思考が脳内を駆け巡る。男の顔を見るととても残念そうな顔をしていた。

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