仲間がいることに安心する。
黒い真四角の建物の中に入ると、
ひよこのルークに社長室に案内された。
リアムはここはどこなんだろうと辺りを
ぐるぐると見回した。
「あー、わかった。
その会場で手配よろしく。」
スマホを片手に窓を見ながら、
ライオンのボスは電話をしていた。
ルークとリアムは、ボスのデスクの前に
立つ。
電話の最中、リアムはデスクにあった
ニュートンのゆりかごのインテリアが
気になって、カチカチと音が鳴るのを
見ていた。右左と揺れるのが楽しかった。
「すまん、電話終わったよ。」
ボスは、ずっとデスクを見ているリアムに
視線をズズイと合わせた。
今にも食べられるんでは無いかと
壁ギリギリまで後退りした。
怖くて鳥肌が立った。
「食べやしないよ。
俺は、ライオンだが、
好物は、ジャーキーだから。
うさぎ肉はくせが強いから食べません。」
「くせの問題では…。
肉食か草食かの問題かと…。」
まだ、体がブルブルと震える。
「すまんすまん。
許せ。
そこにいるひよこが生きてるんだから
食べないよ。
信じておくれ。」
「た、確かに。
ひよこも焼き鳥にすれば
美味しいごちそうになりますもんね。
わかりました。
信じます。」
「はいはい。
落ち着いて、ここのソファに座って。」
商談席を思い出すかのような
大きなふわふわの黒いソファにボスは
座った。
リアムが気になっていた
ニュートンのゆりかごを
テーブルに移動した。
少し、ほっとするリアム。
惹かれるようにソファに座る。
「とりあえず、自己紹介しよう。
私は、この株式会社Spoonの社長
本名は明かせないが、ボスと呼んでくれ。
そこにいるひよこのルークは
副社長兼秘書をしている。
あと、工場長?」
「あ、最後の工場長は言わないでください。
1人で作ってるだけなんで
長にされても困ります。」
ルークは不機嫌そうに言う。
「わかったよ。
君のことを教えてくれるかな。」
「は、はい。
僕は、リアムと申します。
あ、あれ、これって面接ってことに
なるんですか?」
「あー、いいよ。
リラックスして。
そこまで堅苦しくないから。
大丈夫。
不採用にすることはないから。
むしろ、君みたいにね、
ジェマンドっていたじゃない?
ああいう人たちから救いたいと
思ってこの会社を立ち上げたから。
見返したくない?
落としたあの人たちを。」
「え……。まぁ。そうですね。
可能ならば。」
「だよね。
あいつ、ジェマンドも
歌手を目指していた1人だったんだけど
いつからか、あんなふうなやり方で
俳優を育てるようになってね。
私はあいつを認めてないんだけど……。
まぁ、過去のことはいいや。
とりあえず、私は音楽プロデューサーという
肩書きで君を歌手にしたいと
思っているよ。
舞台俳優では無いけど、
まずは歌手でドカンと売れれば
いずれ俳優業もできるから。
どうかな?」
「歌手…。
ほんの一握りの人しか
活躍できませんよね。
大丈夫ですか?
僕みたいので。
今回の俳優応募も適当というか
やってみようって感覚で受けただけ
なので思い入れはそこまでないん
ですけど。」
「いいんだよ。
行動力があるだけで。
私は君を救いたいから。
理不尽に蹴落とす、あいつに
ギャフンを言わせたいの。
人というか、動物なんだけどね。
育てるには、愛がないとやっていけない
ことをしらしめたいの。
ね、頑張ろう!
0からのスタートでも
なんでもできるから。」
ボスはリアムの両肩をがっしりと掴んだ。
「伸び代があるってことですか?
あ、でも、僕、
昔、何年かピアノ教室通ってたので
絶対音感はありますよ。
そう言われるとやる気が出るというか…。
やってみようかと。」
リアムは初めは乗り気ではなかったが、
ボスにアドバイスされると
何だかやる気が満ち溢れてきた。
なんでもできそうな気がしてきた。
「そう?
んじゃ、これからよろしくね。
仲間が他にもいるから。
ホールに集まってもらえるかな?」
「仲間?」
「そう、ほら、行くよ。」
ボスは社長室の扉を開くとホールに続く廊下をリアムとルークとともに移動した。
ホールにつくと、
甲羅の中に入ってくるくると
まわっていたのはミドリカメの
オリヴァだった。
暇になるとすぐに回り始める。
「おーい、オリヴァ。
仲間が増えたから。
出てきて。」
ボスは甲羅に大きな声で叫ぶ。
手から順番に足をポンポンポンポンと出した。最後に頭をいい音を出して登場する。
「え?
仲間ってだれ?」
オリヴァは鏡のある方に体を向けたが、
自分しか映ってなかった。
「こっちです。オリヴァさん!」
ルークが空中を飛びながら声をかける。
リアムはパタパタと長い耳を動かした。
「今日から新しく加入しました
うさぎのリアムさんです。」
「え?うさぎとかめでもやるの?」
「やらないやらない。
それは別な話。
今回は対決しない
バンドメンバーだから。」
「あー、そういうこと。
僕は、ミドリカメのオリヴァです。
よろしくお願いします。」
「リアムです。
よろしくお願いします…。」
「2人揃ったね。
このままじゃ、フラッグ取り合いしなきゃ
いけなくなるからバンドメンバー集まる
までもう少し待ってね。
とりあえず、発声練習して
終わりでいいよ。」
「ボーカル…するわけじゃないですよね?」
「メンバーが集まらないと
決められないから。
目星はついてるから、大丈夫。
明日くらいには
連れてこれるかも。」
「そうなんですか。」
リアムはまだ何も活動できないことに
少し不満だった。
「メンバー揃い次第、連絡するから
ルークから紙もらって
連絡先書いておいてね。
あれ、オリヴァはもう書いてた?」
「はい。昨日、ルークさんに渡しました。」
「んじゃ、大丈夫だ。
悪い、電話入った。
あと、解散でいいから。」
ボスはスマホの着信に気づいて、
社長室へ入って行った。
オリヴァが一緒だと思うと本能的なのか
なぜかほっとしたリアム。
本当に救われた気がした。
胸を撫で下ろした。
配達員ばかりの仕事が減るだけで
生き甲斐が感じられそうだった。
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