赤ずきんオーディション

 雲一つない空から1機の気球が

 地上に降りようとしていた。

 

 熱気球操縦士のスカイとともに

 クレアがリアルワールドに

 足を下ろした。


 深呼吸して、空気を感じた。


「はぁ!何年ぶりだろう。

 地上に降りるの。」


 両手を広げて、空を見上げる。


 フロンティアが天高くに存在していた。

 良くみると虹が差し掛かっている。


 何か良いことがありそうだと

 期待しながら、

 着慣れない黒のワンピーススカートを

 翻した。


「いってらっしゃい!」


「行ってきまーす。」


 スカイは、

 クレアの家の近所に住んでいた。

 顔馴染みのため、

 他の乗客には声を掛けないが、

 クレアには特別だったようだ。


 足取り軽く、オーデイション会場の

 スタジオへ向かった。

 

 ちょうど、気球のおりた場所は、駅近くの

 広場だったため、歩いていける距離

 だった。


 午前10時からスタジオCにて

 行われる。


 シャッターが完全に開いたスタジオに

 足を踏み入れると、

 たくさんのスタッフで溢れていた。


 東の方に白いテントがあった。

 何人かの同じ妖精の応募者が並んでいた。

 そこには、幼馴染のマージュがいた。


「あれ、クレア。

 あなたも受けるの?」


「マージュ、久しぶり。

 元気にしてた?

 最近、顔見てなかったから

 どうしてたかと思って……。」


「私、もう、こっちの世界に

 住んでたから。

 実家に全然帰ってないのよ。

 …忙しくてね。」


 金髪のウェーブがかった髪をかきあげて 

 話す。

 鼻のつくような喋り口調だった。

 クレアはいつもの調子だと

 全然気にしてなかったが、

 周りにいた他の妖精たちは、

 嫌悪感を示していた。


「えー、そうだったの。

 気づかなかったわ。

 確かにアドレアおばさまには、

 何度か会ってたけど、

 マージュの話出てなかったのは、

 家にいなかったからなのね。」


「うん。そうね。

 私の話題に母さん出さないなんて

 よほど清々したわって

 ことなのかしら…。」


「そんなことないでしょう。

 まぁ、元気で良かったわ。

 それより、オーディションだから

 ライバルってことね。

 負けないわよ。」


 手を握りしめて、目を燃えさせた。


 「……うん。頑張って。

 私はいつもの通りにするだけだから。」


 勝ち誇ったかのような顔で話すマージュ。

 それをクレアは気にせずにアルパカの

 受付に声をかけた。


「おはようございます。

 オーディション参加の方は

 こちらに記入をお願いします。」


 受付のアルパカの女性が

 テキパキとバインダーにはさんだ

 アンケート用紙を差し出した。


 クレアは、ボールペンを握りしめて

 アンケートを記入し始めた。


 内容は名前などの個人情報の記入と

 狼としての希望する出演作品を下から

 選び、◯をつけてください。


 【ヘンデルとグレーテル】

 【ゆきばらとべにばら】

 【不思議の国のアリス】

 【赤ずきん】


 と書かれていた。


  もちろん、クレアは募集していた

 赤ずきんに◯をつけた。


 せっかくに募集してると言って

 来ているのに他の作品を選ぶのは

 御法度だと思った。


 まさか、この◯が重要な選択だとは

 思わなかった。


「記入終わりましたので、

 これでお願いします。」


「はい、お預かり致しします。」


 アルパカ女性は笑顔で受け取ってくれた。


「アンケートのご記入を終えた方は

 こちらでお待ちください。」


 待合室へ案内された。


 そこにはたくさんの童話の絵本が

 置かれていた。

 女の子が主人公の作品はもちろん、

 狼、かめ、うさぎが出てくる絵本が

 ところ狭しと並んでいた。

 小さな図書館のようだった。


「赤ずきんだから、これかな。」


 本棚から真っ赤な背景の

 赤ずきんの本を取り出した。


 ごくごく普通のストーリーだった。

 

 女の子がおばあちゃんのお見舞いに

 行ったら狼だったって言う話だった。


 だいぶ省略はされていたが

 小さい子が読みやすいようになっていた。


 クレアを含めて5人の妖精の女の子が

 立ち並んでいた。


 それぞれに緊張している。


 白線に均等に並ぶよう指示されて

 プロデューサーとスタッフ2名は

 長テーブルを前にして座っていた。


 心臓の音が響くんじゃないかというくらい

 静かになった。


 そんな状況の中

 赤ずきんのオーディションの本番が

 はじまった。

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