第1話 逃げた先は

 俺は、鈴木正こと、異世界ネームはコレイトだ。

 異世界ネームというのは、異世界転移者は本名で名乗ると大体がキラキラネームのような扱いを受けるがために、異世界だけで通用する名前を名乗ることを異世界ネームと言う。


 コレイトはスペイン語で「正しい」と言う意味らしいけど、俺はそんな人生を歩めている気がしないんだ。


 だって、俺は犯罪者の家族で、その現実から逃げるために異世界に来てしまったのだから。

 あれから数年の時が流れても、きっと向こうでは誰かが俺の噂をしているに決まっている。


 俺は、行き場のないところをふらついていた。

 この場所は俺のことなんて、誰も知らないはずなのに、知っている人がいたらこわいという恐怖が湧き出てくる。

 俺と同じような異世界転移者もいるかもしれないし、そんなことほとんどの確率であるはずがない。

 あるはずがないのに、俺は自分が何に対してこわがっているのか、全然わからなかった。


「俺は、どこへ向かえばいいんだろうな・・・・?」


 そう、1人で囁いた。

 知り合いもいない、この広い世界で、俺は何がしたいのだろうか・・・?


「どこへ・・・・?


どこへ言ったのか?」


 声のした方を見ると、一匹の宙に浮いているコアラ。


「えええええええー!」


 コアラが、飛んでる!?


 どういうことだ!


「何を驚いているのさ?」


「コアラだよな?」


「そんな認識なのか?」


「どっからどう見ても、コアラだし・・・・」


「おいらは、サルヴァトーレ。


コアラじゃない。


ちゃんとした名前もある。


もしかして、サルヴァトーレ様を知らないのか?」


 俺はどこかで聞いたことあるかどうか記憶を探ってみたけど、ない。


「ごめん、知らない」


「常識とかないのか?」


 その言葉は、すごく傷つく。

 俺にも、プライドがある。


 それなら、議論してやる。


「この世界では有名かもしらないけど・・・」


「この世界で有名なんて、一言も言っていない」


「え?」


「この地域で有名なだけだ。


遠方に向かえば、おいらのことを知らない人はおる」


「自慢をしたいのか?」


「それが目的ではない。


おいらは通りがかりの貴様を助けたいと思ってな」


「俺を助ける・・・・?」


 もしかして、俺が犯罪者の家族だということを知っているのか?

 だとしたら、助けると言いつつ、俺を騙そうとするかもしれない。


 あの頃みたく、簡単に人を信じられなくなってきてるんだ。


「どこへ向かうかわからないという発言をしておったな。


目的がわからないのなら、案内していこうと思ってな」


 その発言を聞いた途端、俺は胸をなでおろした。

 気付いてない。


「向かいたいところなんて、ないんだ」


「冒険者ではないのか?」


「それとは、意味が違ってくるかもな。


俺、目的もないし、ただ何か楽しいことがないかなって」


 自分でも、何を言っているのかわからない。


 サルヴァトーレは、首をかしげていた。


「家出か?


それとも、迷子か?


身元がわかれば、家まで送り届けてあげるが・・・・」


 こういう解釈もあったか。


「いいんだ。


目的もないし、サルヴァトーレがどうこうすることではないかも。


俺は大丈夫だから」


「そうか?


だけど、この地域は治安が悪い。


ここにいることは、危険だ。


だから、昼間のうちに移動できるようにしておいたほうがいい」


「え?」


「この様子だと、貴様は何も知らない様だな。


この場所は誘拐事件、殺人事件が、年間で何百件も起きていると言われる、世界で一番治安の悪い地域、クライム地方と呼ばれるところだ」


 クライム地方?

 聞いたことがないな。


 その前に、俺は異世界でのことについて、知らないことのほうが多い。


「俺は、どうすれば・・・・?」


 俺はぞっとしながら、聞いた。


「昼間でも移動できるうちに、移動したほうがいいという話だ。


今の時間でも、危険だがな」


 突然、どこからか爆弾の音がして、女の人の叫び声が聞こえた。


「きゃあああああああ」


「爆弾だ!


今すぐ、逃げろ!」


 俺は、自分でも顔が青ざめることがわかった。


「ほら、言わんこっちゃない・・・・」


「そんなこと、言っている場合か!


怪我をしてるかもしれない!


死人が出ているかもしれない!


どうにかできないのか?」


「だとしたら、どうする・・・・?」


「え?」


 サルヴァトーレが真剣な顔をしていた。


「一度、被害にあった人は助けられない。


助からない。


爆弾被害が出たところに向かえば、真っ先に巻き込まれる。


そんな中で、どうするのさ?」


「それは・・・・」


 俺は、答えに戸惑っていた。


「さ、この地域から抜け出すことだけを考えよう。


そうすれば、貴様だけでも助かる」


「うん・・・」


 どこか納得がいかないけど、従うしかなかった。

 俺はサルヴァトーレの後についていきながら、逃げた。


 爆弾の音があっちこっちで聞こえ、その度に叫び声や子供の鳴き声まで聞こえた。


「あのさ、俺は君に名前言ったけ・・・?」


「そういえば、言ってないな。


貴様、名はなんと言うんだ?」


「俺は、コレイトって言うんだけど、この名前は身に覚えとかあったりする?」


「ないな。


コレイトか。


有名な活躍をしていれば、どこか歴史書でも書かれているだろう。


貴様、そこまでの活躍でもしたのか?」

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加害者家族の異世界逃亡生活 野うさぎ @kadoyomihon

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