エピローグ。 そして世界は平和になり、2章が解禁された




 レポートを書き終えたナクラは、満足げにふうと息を吐いた。


 ちなみにナクラの脳内補完によって、ダグドラはナクラの仲良し(死)ジュースで改心した後謁見室の掃除(邪魔なゴブリンキングを片付ける)を買って出て、その後シャルロッテに首を差し出したことになっていた。


 もうそれでいいや、と匙を投げつけたくなるのをぐっとこらえてあえて言おう。ナクラ、お前は間違っている!!!


 かくしてイチストは救われて、1章をクリアしたナクラは早速2章エリアとやらに顔を突っ込んでみようと考えた。

 (とはいえ、ダグドラ討伐の功績を称えられ、ナクラ・マール・シャルロッテの3人PTを称える祝賀会をばっちり堪能した後の話である。もちろん祝賀会の料理は城の料理人が担当し、ちゃんと人が食べられる美味しい料理が並んだのは言うまでもない)


 2章エリアへ行くには、聖なる森の遺跡を移動ポータルとして『2章の世界へ転移する』を選択すればいいらしい。ちゃんと戻ってくることもできるそうだ。

 尚、これはチュートリアルお姉さんことシャルロッテが教えてくれた。何で知ってるの? とは聞いてはいけない不文律おやくそくである。


「よーし、行くよマール! スムージー! まだ見ぬ世界へ!」

「おー!!」


 元気よく返事するマール。あとナクラの頭の上でプルプル震えるポイズンスライムのスムージー。

 2章はβテストでも実装されていなかった前人未到のフロンティア。

 きっと素晴らしい食材の宝庫に違いない! と意気込むナクラ。おいこらやめろというフェンリル&ダグドラの声が聞こえないのか! この鬼! 悪魔! ナクラの手料理!……失敬、今の不適切な発言には鬼と悪魔に謝罪が必要ですね。


「ん?」


 と、ここで現実世界、担当編集の田中さんからメールが来ていることに気づいた。


「どうしたのナクラ」

「……田中さんからメールが来てる。なんだろ?……『大至急連絡されたし』?」

「タナカさん??」

「あ、こっちの話」


 ナクラはぱたぱたと手を振って誤魔化した。


「なんだろう。ちょっと行ってくるね」


 ナクラはメニューからログアウトを行い、現実世界に舞い戻る。

 マールには悪いが、戻ってくるときはこの一瞬先になるので許しておくれ。


 * * *



『名倉先生!! 凄い事になってます、いったい何をやったんですか?』

「え? え? す、すみません、何かやっちゃいましたか!?」


 そうしてナクラ――加古は、現実世界で担当の田中さんに電話を掛けたところ、開幕早々に怒られたので今どき流行らないすっとぼけ系主人公のようなセリフを吐いた。


『ああいや、怒っているわけではないです。先生の最新のブログをアップしたところ、オリスタ公式HPやツブヤキッター、某掲示板等から物凄い数のアクセスがありまして。なんでも最速1章クリアらしいですよ、おめでとうございます』

「あ、ありがとうございます?」


 どうやら怒っているわけではないらしい。ナクラはふぅと一息つく。


「って、最速1章クリアなんですか? 私が?」

『はい。公式ツブヤキッターで「PC名:ナクラ」が、と。ウチの公式ブログへのリンクと併せて載ってたので同名の別キャラという事もないですね。なので急ぎそのことだけお伝えしておかねばと』


 ふむふむ、と加古は頷く。

 それにしても、加古はナクラとして結構好き勝手遊んでたし、そもそも途中ブログ記事だって書いたりしてた。それなのに最速というのは結構おかしいのではないだろうか? βテストあがりの攻略ガチ勢なんかも居るだろうに。

 と、ここで加古は考えた。


 そうか、さてはβテスト参加者は本番での仕様変更にことごとくつまずいて攻略に時間がかかり、そしてたまたまナクラは最速で攻略するルートに乗っかってしまったに違いない。なにせ新規発見のPルートだ! と。


 もうそれでいいよ(報告! 匙は月まで到達しました!)


「……どうやら私は最速だったみたいですね!」

『だからそう言ってるじゃないですか』

「あ、はい」


 途中の説明をすっぽかして結論を述べた加古の発言だが、単に事実であったために編集の田中さんに肯定されてしまった。以上、この話終わり。加古の中では解決したことになってしまった。


『まぁそんなわけで、かなり注目されてるみたいなんですよ、名倉先生が』

「私が……え、私が、注目……!?」

『はい。しかも地味に、本当に宣伝効果があったんだなぁって所なんですが凸マジの注文の問い合わせがあったりですね……』

「なんと!」


 凸マジ――『突撃マジ狩る戦車道』。それは「名倉ばっこ」のデビュー作にして代表作、しかし3巻打ち切りという涙の作品だ。


「あの、もしなんですが。可能性の話なので、もしかしたらの話なんですが……注文とかがいっぱいあれば、4巻目が出せる芽が出てくる可能性も出てきたりこなかったりするやも……」

『……電子書籍の売り上げとかで続刊が決定する事例もありますし、可能性は0ではないですね。特に紙の在庫がハケるのはデカいですし。このまま紙の本も注文していってもらえれば、あるいは』

「!!」


 加古は目を見開き驚いた。


「つ、つまり……? なんですか? 私はこのゲームをすればするほど、将来的によ、よよよ、4巻が出せちゃったり!?」

『まぁ現状では万が一、億が一という可能性なので……期待はしないでくださいね?』

「私頑張りますからぁ!!!」


 加古はぐっと気合を入れた。もっさりしたジャージ姿なので格好は付かなかったが!


『あ、でももしそうなった場合でも最低限契約期間中はブログ記事は書いてもらいますけど、大丈夫ですか? ちゃんと宣伝にもなるみたいですし編集部としても続けて欲しい意向です』

「はい! ヨロコンデ!」


 居酒屋の店員の如く元気に挨拶する加古。

 本を書く以外のお仕事も当然大事な収入源であるが故に手を抜きは一切ない!!


「よぉし、そうと決まれば早速第2章エリアにいってこなきゃ!」

『はい、よろしくお願いします。なんか現状一番手らしいので、何書いてもきっと注目されますよ。というわけで、引き続きブログ記事待ってますね』

「はーい!」


 目指すは知名度のアップ、そして復活の4巻である!

 加古は、これからも全力で『オリジンスターオンライン』に取り組む決意をした。



 加古の――ナクラの戦いは、これからだ!!



 ……あ、でも料理は手を抜いて、ミニゲームで作って欲しいなぁって。きっと想定外の最短ルートでクリアされた運営はそう望んでるって絶対。ね?



――――――――――――――――――

(完結です。ここまでお付き合いありがとうございました!

 本作は元々別作品、「絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで」の14巻を宣伝するために書いた作品です。


 気が向いたら2章を書く予定ではあったんですが、まぁコミカライズが出まして。

 んで、2巻まで出ました。――が、2巻は電子版のみ! 完結! お察しください!


 コミカライズ版ではナクラ飯がビジュアル付きで見ることができます。

 よかったら買ってね!(露骨すぎる宣伝)


 それでは皆様、また別作品でよろしくお願いします。m(_ _)mペコリ。)

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