第29話 3日目の朝


 2日目も2本のレポートを書いてから寝てしまったナクラ――加古。そんな加古の下に、今日も編集の田中さんから電話がかかってきた。


『あ、もしもしばっこ先生。レポートいただきましたー。少し反響ありましたよ!』

「おお、そうですか!? どこがよかったでしょうか!」

『具体的には竹林先生との絡みですね! 竹林先生のファンからもコメントされてました!』


 あー、コラボ先の影響力ぅ! とナクラは額に手を当て天を仰いだ。本人の実力ではないのだ、まぁ、そもそもゲーム公認ブログって時点で『オリスタ』のフンドシをはいて相撲を取っているようなものだが。


『あ、それとゴブリンキング? のスクショも撮ってほしいってリクエストがありましたね』

「すっかり忘れてましたね。どうしたらいいのかな……」

『竹林先生は、死骸の首を切り落としてツーショットの写真アップしてましたよ』

「……発想がえぐい!!」


 想像しただけで絵面がやばかった。同じことをするべきだろうか?

 ……うーん。と悩む加古。折角のリクエストだし、応えたい気持ちはある。


「や、やれたらやってみます……」

『はい、お願いします』


 ちなみに田中さんは『オリジンスターオンライン』未プレイ勢であり、ゴブリンキングのことは知らない。加古の担当だというのになんという怠慢か、おかげで今日も加古はナクラの異常性に気づけない! しかしちゃんとブログにきたコメントをナクラに教えてくれるやさしい編集さんであった。26歳独身、彼氏募集中のスーツの似合う女である。


『ああそれと、オンライン要素のPRまだ不足してます。オンラインクエストもやってくださいね。今日じゃなくてもいいですが、近いうちに』

「は、はい……がんばります」


 ゲーム内での知り合いが増えたとはいえ、未だに性根がボッチのナクラに、オンラインで他人と関われというのは酷だというのに。なんという鬼編集、気になる男の人に修羅場三日目の腋臭嗅がれてドン引きされてしま……え、その前に出会いがない? あ、なんかその、ごめん……


『今のところ順調なので、可能であればまた1日2回のレポートを頂ければ』

「うう、がんばります」

『それじゃ、また今日もよろしくお願いします!』


 通話終了。加古は「大分普通に話せてる! オリスタでマールと話してるからかなっ」と前向きな気持ちであった。


  * * *


 そして加古はナクラになる。『オリスタ』の世界へ舞い戻ると、宿で泊まった翌朝という状態になっていた。

 宿に泊まった状態でログアウトすると再開時にこういう風にもできる。勿論、ログアウト直後から再開というのも選べる。

 普通のMMORPGではできない、ストーリーモードがオフラインの『オリスタ』だからこそできる匠の技といえよう。


「おはよう、ナクラ!」

「ん、おはようマール。元気いっぱいで可愛いね」

「えっ、か、可愛いだなんて、えへへ、そ、そお?」


 照れて頬を赤くするマール。既にナクラへの好感度は結構高いようである。恐らくゴブリンキングという強敵を一緒に倒した仲(という判定)からで、さらに一緒に火の山に冒険に行ったり、お揃いの装備を買ったという事実も追い打ちをかけている。

 これはマールルートが解禁されてしまうやもしれないな! とナクラは頷いた。


「ねぇナクラ。今日はどうする? デートでもしちゃう?」

「で、デート!? んん、それも捨てがたいけど……えーっと……」


 今日の目的はメインクエスト、『王への報告』だ。

 そんなわけで、ナクラはマールの胸元に推奨選択肢が浮かぶ前に返答を決めた。


「今日はゴブリンのことを報告しようかなって」

「報告かぁ。じゃあギルドだね! いこっ、ナクラ!」


 元気いっぱいのマール。その手には昨日お揃いで買った手袋が付けられている。

 ナクラはむふーっと鼻息を吐いて、その手を取った。


 ちなみに先日テイムしたポイズンゼリースライム、スムージーは頭装備が如くナクラの頭の上に張り付いている。大丈夫、ナクラは禿げない。猛毒耐性がMAXなので。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る