第2話

 まさかこんなことになるなんて思っていなかった。だって私、秋斗君のことが好きだったんだもん。なのになんで…、


「わかった。私でよければ、いいよ」

 カズ君の告白を聞いて、私ったら笑顔でそう答えてたんだよ!!


 私の返事を聞いて、カズ君、飛び上がって喜んでて……そんな姿見てたら、なんだか嬉しくなっちゃってさ。単純だよね、私。なんか、必要とされてるってことが嬉しかったんだ。それにさ、カズ君て、昔から変わらず優しいし。


「ほんとにありがと! 俺、マリアのこと大事にする! 絶対絶対大事にするからっ」

 とびっきりの笑顔でそんなこと言われて、なんだか恥ずかしいような、誇らしいような。

 でもカズ君、病気だったなんて……。


「ねぇ、したいこと、ある?」

「したいこと? そうだな、放課後デートもしたいし、週末に出かけたりもしたい! それに…、」

 急にカズ君がもじもじする。

「なに?」

「手、繋いだりとか…?」

 赤い顔してそっぽ向いたままそんな風に言われて、私、めちゃくちゃドキドキした。


「バカっ!」

 思わずカズ君の背中、叩いちゃった。


 カズ君は幼稚園卒園まで隣に住んでいた。家が近いだけじゃなく、お母さん同士も仲が良かったからよく遊んだんだよね。うちは上がお兄ちゃんなんだけど、年が離れてるから一緒には遊ばなかったし、あの頃はカズ君との方が兄弟みたいに過ごしてた気がする。


 でも小学校に行くタイミングで私が引っ越しちゃって、それっきりだったんだ。


 高校に入って再会して、最初に声かけられた時は驚いたなぁ。カズ君、すごく背も伸びてて、声も低くて。なのに幼稚園の頃とおんなじって、どういうことよ! ふふ、一気に時間が戻ったみたいにさ、話が弾んで。


 でも、異性っていうより幼馴染って感じ。

 少なくとも私はそう思ってたんだけど、カズ君の初恋が私だった、とか、今も……私が好きだ、とか。そんなこと、考えもしなかった。それに…、


 本当に死んじゃうのかな?

 私たち、まだ高校生だよ?

 楽しいこと、これからいっぱい待ってるはずなのに。


「じゃ、とりあえず今日、一緒に帰るのとかは……いい?」

 カズ君が恥ずかしそうに言ってきた。私は大きく頷く。

「いいよ、そうしよう」

「やった! マリア、ありがとう!」

「うん」

「……あ!」

「なに?」

「あのさ、このことって……その、俺たちが付き合うことって、やっぱ内緒の方がいいんだよね?」


 あ、どうしよう。

 私は秋斗君が好きなんだし、付き合うっていうのもフリみたいなもんだし、あんまり公にしないほうがいい……よね?


「そう……だね。秘密がいいかな」

 私の返事を聞いて、なんだか悲しそうな顔をするカズ君。

「だよな。本当は、さ、俺がマリアの彼氏だぞ~! って叫びまくりたいくらいなんだけど…ダメ……だよな?」

「んもぅ、なに言ってるのっ」


 ああああ、恥ずかしい! 私、今絶対顔赤いよぉ! カズ君て昔からこんなキャラだったっけ?


「だって、俺、マジで嬉しいんだもん!」

「カズ君…、」

 私は、嬉しそうなカズ君と、これからカズ君に起こるべく未来のことを考えて、また涙が出てしまう。

「あ、マリア泣かないでよ! ごめん、俺、はしゃぎすぎたな」


 未来が分かってるカズ君。

 一瞬暗い顔を覗かせたのは、やっぱり怖くなったからだよね。そうだよね。死んじゃうなんて、怖いよね。


 私、カズ君の彼女になるんだもん、もっと強くならなきゃ駄目だよね。そして、いっぱい楽しい思い出作って、いっぱいカズ君を笑顔にさせてあげなきゃ!


「やだなぁ、カズ君がはしゃぐから、面白くって笑っちゃったじゃない。ねぇ、帰りさ、どこか寄り道していこう!」


 私はとびきりの笑顔で、カズ君にそう言った。



*****



 放課後、私たちは人の目を気にしながら校門の外で待ち合わせをした。本当だったら教室からそのまま一緒に出られるんだけど、付き合ってるってことを内緒にするんだったら一緒に出るのはまずいし。


 学校近くの公園で、カズ君は待っててくれた。私は足早に近付くと、

「お待たせ!」

 なんて言ってみる。

 なんだか本当に付き合ってるみたい。ちょっと照れるな。


「マリア!」

 私を見つけたカズ君がパッと顔を上げた。何その顔! 眩しそうな顔でこっちみないでよぉ。ほんと、ドキドキしちゃうよ。


「夢みたいだな。本当にマリアと一緒に帰れるんだ。そんで、寄り道とかしちゃうんだ。やべぇ~!」

 変なテンションで盛り上がるカズ君。私は、授業中考えてた寄り道先候補を書いた紙をカズ君に渡した。


「え? これ…、え? 考えててくれたの? 候補、こんなに? うっわ、嬉しいっ。マリア、優しい! 可愛い! 大好きだ!」

「ちょ! こんなとこでっ」

 恥ずかしげもなく好きだとか言ってくるカズ君に、私は振り回されっぱなしだった。


「じゃ、ここに行こう! マリア、この前友達とパンケーキの話してたもんな。これがそうだろ? 食べたいって言ってたよね?」

「え? そんなこと、よく覚えてたね?」

「当たり前じゃん。俺、マリアが話してることとかすごい気にして聞いてたもん」

「盗み聞きぃ?」

「好きな女の子のことは何でも知りたいの!」

「またっ、もぅ」


 あんまり好きだ好きだって言わないでよぉ! 恥ずかしいし……それに私…カズ君に嘘ついて付き合ってるのに、なんだか申し訳なくなってくる。


「ね、マリア。ここでいい?」

 私が行きたかったパンケーキ屋さんの書き込みを、カズ君は選んだ。それは私のためだよね? カズ君はきっとパンケーキなんて興味なかったでしょ?

 そういう優しいとこ、あの頃と変わってないんだなぁ。

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