遠雷
小林紗弥
遠雷
梅雨晴れの街を歩けばすれ違う人の香水あかるい匂い
汗まみれのラクロス部員を追い越しぬ試験を受けに他大へ行けば
人間の身体の中に水流れ満ちずにゆらり揮発してゆく
芝刈りの済んだ匂いを嗅ぐたびに記憶の井戸から水があふれる
眩しさと懐かしさは少し似ている 戻らぬ日々の隙間のひかり
散歩コースに含まれている雑草の空き地が匂い立つ雨の夕
雑草の伸びた空き地を駆けてゆくきみの飼い犬の毛が湿ってく
空き地ではリード外され弾丸のように駆けだすチワワのエルサ
ああ靴と裾が濡れたと気づきつつ教室サイズの空き地を進む
雪が好きだなんて聞いたことなくて雨降る午後に知る君がいる
雨多き街に冬は長く留まる 雪の重さも軽さも知らず
シチリアに降った大雪かきわけてクロエーに会いに行ったダフニス
牧人のダフニスの匂い揶揄されて犬洗うときの匂いを思う
学年もクラスも違い大抵は放課後に会いネトフリ見てた
ブルックリン・ナイン・ナインのきみが見た続きからいきなり見始める
あの人はシャイだからって別の人がきみの話をしてるのを聞き
われだけがわれの記憶に干渉し雨もきみのそばかすも美化する
遠雷にざわめくこころ人間のかつて水だった名残の強さ
聞いておけばよかったなって思うこときっとこれからもっと増えてく
三日月が好きだと言ったのはきみかそれともわれか思い出せない
遠雷 小林紗弥 @kobayashi_saya
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