流れ星つまんだような
紙村えい
流れ星つまんだような
病室の前はカルテの一行のようにみな静か、5つ数えて
東京の曇天は西まで伸びて決して雪の降らない路地へ
流れ星つまんだようなグミを売る名古屋駅の夕空の火星
指と指を重ねるとき立ち上がる体温のような呪文がある
車窓からきみが目をやる聖の丘 イオンモールは教会である
思い出の出口に蓋をするように丹念に塗り込む湿疹薬
病院の奥で男は石になる機械音が鳴り響く湖底
何回の息を男はするだろう この世の酸素のとおる蛇腹
眼球を満たす液体は流れず記憶のための海路となる
温かいままの体で死に向かう顔に空いた仄暗い墓穴
喪服にも細身の型があり我はやせ細る死の予行練習
葬儀場へ向かう我らの隊形は雪の結晶のフォーメーション
親指で記した喪主の挨拶を永遠に記憶するiPhone
焼き場からの煙の数を数える 人の記憶は燃え尽きるもの
浴室の素足は明日の葬儀場へこの冷たさを封じ込めてよ
葬儀屋の電話番号
親戚の顔がみな死者に似ており未来と対峙する焼香具
燃えやすい思い出だけを棺という七十五年目の可燃性
自動車の揺れで骨壷かたむいて抱きしめる腕に熱伝導
箸で持つ頭蓋の骨の重さすら生きていたことの意味と捉える
流れ星つまんだような 紙村えい @kakimura_ei
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