田舎の旅館で狐母娘と交流する話
田舎の人
暗闇
「ふわぁ……」
格安の団地の一室で寝転がりながら欠伸を掻き、スマホをただただ流し見する。
親に言われた通り勉強をし、言われるがまま大学に入り、仕送りを貰いながら大学と自宅を行き来する退屈な生活。
「暇だなぁ……」
夏休みの中盤、買ってきたゲームや漫画は全てやり尽くしてしまった。
時計を見ると、まだ朝の10時。
「ぬわああぁ……」
スマホの画面に思い切り指を這わせて、畳張りの床へ手足を投げ出す。
やることがない。暇すぎる。
「ん……?」
画面に浮かぶ
俺は何故かその地味な画面から目が離せなくなった。
「あ〜……行ってみるか……」
少し遠いが原付で行ける距離だ。
黒いリュックに貴重品を詰めて、スマホで旅館への道案内を開始する。
「よし……」
原付の収納スペースへリュックをぶち込み、エンジンを掛けて、ゆっくりとハンドルを捻る。
後ろへと過ぎ去っていく車両の波を横目に目的地へ向かう。
久しぶりに原付に乗ったが、何とか運転出来そうだ。
時間が経つ毎に生い茂っていた鉄の木々は形を潜め、何もない平坦な景色が姿を見せ始める。
その見慣れない情景に俺は息を呑んだ。
スマホの画面で見たあの美しい光景がそのまま目の前に広がっているのだから。
「すげぇ……」
山道の路肩に原付を停めて、スマホでその美しい光景の写真を撮る。
そして、旅館への道が示されている地図のアプリを開く。
「もう少し先か……」
どうやら旅館はこの道の更に奥にあるらしい。
スマホから顔を見上げた俺はその光景に絶句した。
暗い。あまりにも暗すぎる。
山道の奥へと続く入り口はまだ昼間のはずなのに夜中のように薄暗い。
「アンタ……」
「うぉっ……!?」
背後から掛けられた声に驚いて振り返る。
そこには黒いリュックを背負った高校生くらいの少女が居た。
少女は真っ黒なパーカーのフードを深く被り、短いホットパンツを履いていて、眩い金髪がフードから溢れている。
「自殺でもしに来たの……?」
「い、いや……違うけど……」
「観光……?」
「まぁ……滝乃淵って旅館に行きたいんだけど……」
「真っ直ぐ行けば着くよ……」
表情が見えない少女は淡々と暗闇の先へ指を伸ばす。
背筋が凍るような感覚と首筋に走る汗の冷たさに俺は立ち尽くした。
「な、なぁ……本当に道合ってるのか……?」
「何……? 案内して欲しいの……?」
「出来ることなら……」
「はぁ……」
少女は深い溜息を吐いてゆっくりと歩き始めた。
俺は原付を押しながらその後を追う。
「悪いな……」
「アンタ……名前は……?」
「
「ふーん……」
「君は……?」
「
「東ちゃんか……よろしくな……」
「ちゃん付けやめて……」
「あ、ごめん……」
どうやらかなり警戒されているらしい。
俺は東の後を追いながら狐色になっている空を見上げた。
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