第29話 レンタルフット始めます(3)

 プログラミングを組むことが好きな俺は、システム会社に勤めていたが、同僚や上司とはあまり上手く付き合えなかった。それを理由に、陰であれこれと言われていたのを知っている。知らないふり、聞こえないふりをしていたが、俺だって、多少は傷つく。


 だが、陰である事ない事言われるのには慣れていた。だって、昔からそうだったから。


 一人の時間が他の人よりも多かった事が、俺がプログラミングやら発明やらに夢中になった一因かも知れない。いや、プログラミングやら発明やらに夢中になっていたから、一人の時間が人よりも多かったのか。


 これはもう、ニワトリタマゴと同じだ。考えても意味がない。とにかく、俺は、ちょっとだけ人付き合いの苦手な、プログラミングと発明を趣味にする、物静かな奴だった。


 会社では、文句など言わない奴だと思われていたのだろう。仕事を押し付けられたり、ミスを押し付けられることなど日常茶飯事。終いには、会社に多大な損害を与えたミスを押し付けられた。それでも唇を噛めしめ、なんとかかんとか仕事をしていたが、会社に対しての不利益の塊と見做された俺は、人知れず上司から肩を叩かれた。会社が人員整理に入り、早期退職を募るらしいから、考えてみてはどうかと。


 俺は、ていのいいリストラにあった。


 会社に思い入れなどなかったが、これからの生活を考えると、多少なりとも不安に駆られた。これから、どのように生活をしていこうか。


 上の空で歩いていたのが良くなかった。いや、今の結果を考えると、良かったと言うべきなのだろう。


 俺は、道路の些細な段差に躓き、そのまま、体を道路へ投げ出すようにして盛大に転んだ。そこへ、大型トラックが突っ込んできて、見事に俺と接触。俺は、全治1年という大怪我を負うことになった。


 普通ならそこで、「なんと不幸なんだ」と嘆くべきなのだろう。しかし、俺は違った。1年は確実に、求職の心配をしなくてもいいのだ。それどころか、かなりの時間を持て余すことになる。それらは、全て、プログラミングと発明に費やせる。俺は、自分の不幸を嘆くどころか、歓喜に打ち震え、事故の前以上に、一人の時間に没頭したのだ。


 その結果、俺は、自律思考型のAIを組み上げることができた。レタリーは、初めはごく簡単な受け答えしかできなかったが、俺との会話の中で、多くの事を学び、自身で不具合のあるプログラミング箇所を修正し、今のようなAI秘書へと成長していった。

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