第6話 僕のごちそう(2)
春には、桜の葉に包まれた桜餅、抹茶のティラミス、それに、イチゴのシュークリーム。
夏には、ブルーハワイのかき氷と、二段になったアイスクリーム。
秋には、ほくほく焼きいもに、大きな栗の乗ったモンブラン。それから、中がトロトロのアップルパイ。
冬には、餡子がぎっしり詰まったたい焼きと、鰹節がゆらゆらと躍るたこ焼き。
それが、君の推しメン。
朝は、ごはんに味噌汁、卵焼き。ときどき、トーストにコーンスープ。
昼は、パスタ、ラーメン、そば、うどん。そして、ものすごくたまに、サラダだけ。
夜は、イタリアンかフレンチか。中華か和食か。とにかく、何でも食べたいんだよね。
休日は、キミにとって、ちょっぴり特別なのかな?
晴れの日には、おにぎりやサンドウィッチをお供に公園へ。
曇りの日には、大きめコーラと、ついでにハンバーガーとフライドポテトで気分転換。
雨の日には、家の中で、じっくりパンを焼く。
雪の日は、まだあの日以来やってこないけど、やっぱり、キミは、舞い落ちる雪を食べるのかな。
これが、僕が知っているキミのこと。
だけど、本当はもっとキミのことを知りたい。キミに近づきたい。もっと深く、キミの核となる部分に触れてみたい。この願いは、どうすれば叶えられるのだろうか。
思い切って、キミの手に触れてみようか。キミを抱きしめてみようか。キミの唇を奪ってみようか。
そんなことを考えながら、今日も、いつものように公園のベンチでキミとの時間を過ごしていたけれど、冬空の公園はとても寒い。
僕は早く帰ろうと、キミを急き立てる。しかし、どんなに僕に急き立てられようとも、キミは全く動じない。キミの口は止まらない。何も食べていない今だって、キミは食べ物の話で、せわしなく口を動かしている。
そんなキミの手を、僕は思い切って握る。キミの細い指に、僕の指を絡ませると、僕はキミの手を引きながら、公園の出口を目指す。
その道すがら、僕はキミに聞いてみた。
「ねぇ、キミはいつもたくさんの物を食べたがるけれど、もしも、明日人生が終わるとしたら、最後の晩餐に何を選ぶの?」
僕の唐突な質問に、キミは小首をかしげながら立ち止まり、まるで熟したイチゴのような色をした唇に人差し指を軽く当てて考え込む。
「お寿司もいいし、焼肉もいいなぁ。あ~、でも、やっぱり最後だし、フォアグラ、キャビア、トリュフの三大珍味は外せないよね。だけどなぁ……結局、一番の好物がいいのかなぁ……」
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