水槽で飼う

ナカムラロボ

水槽で飼う

純粋に人が嫌いだ外に降る雨を瞳で抱き締めながら


窓にふれその冷たさに安堵するここはどこへも行けない岸辺


なぞる指こぼれる結露 傷口はいたるところに蔓延はびこっていて


軒下の濡れない場所に蜘蛛がいる翅がないのに脚ばかりある


歩くたび湿る廊下は貼り付いて奥には深い影がる森


手のひらを水が這いずる手の甲に辿り着いたらただ落ちていく


薄暗い洗面台で洗うから私の顔は斑紋になる


複眼のような三面鏡にいて首へ静かにかかる前脚


階段を数えて昇る踏むごとにきいきいぎいと鳴き声がする


横たわることで広がる灰色の空 土葬には花が足らない


閉じたまま見つめていればその闇のなかに時折混ざる蛍蛾


夢のなかでも泣いていたその河は燃やしていいと言ってなかった


濡れながら揺れる梔子くちなしいつまでも生まれた場所で生きねばならず


やや醒めて漠然とした哀しみよなずきにかかるレースカーテン


ひりひりとコンロは燃えて円になる火は睡蓮のように開いて


雨脚は少し早まり確かさのない肉体が見えては消える


浴槽で身体をさする肌と肉その中間に泥濘ぬかるみがある


喉笛は一度も鳴らずゆっくりと閉じれば嗚咽するようなドア


乾き切る水槽のなか蝶々を閉じ込めながら眺めたあの日


変われない罪を抱えてこの夜も蛹のようなかたちで眠る

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