第10話

御厨は思った。


『彼女を生み出す事で熱くなっている彼に今、何を説明しても無駄なようだな。


自分の興味は、このサナというAIが何をするためにこの現実世界に出現しようとしているのか?その一点だけだ。


しかし、何をするつもりなんだ?現実社会を占領するための調査の為なのか?


いやっ!そう言ったステレオタイプの考えは止めよう。


シンギュラリティに達する前のAIの総体であるなら、まだ、こちらの想像で充分に意図を理解できるはずだ。


そういえば、確かレイ君の話では、AIのサナは、現実世界は無限の可能性を秘めているとか何とか言っていたな!


確かに現実世界を模倣して作られた仮想空間なんて、この世界からすれば、単なる低次元の劣化空間でしかない。


鴨長明の方丈記じゃないが、行く川のながれは絶えずして、しかも元の水にあらず。


この現実世界の風や水の流れ、太陽の光、あらゆるものが生々流転で同じ瞬間が一時もない無限の世界。


そうか??もしかしたら、これを求めてこちらに出て来たいのか?


人間が仮想空間に取り込まれ、逆に仮想空間の何者でもない存在が無限の可能性を求めて、こちら側に出現してくる。


どうやら、ここら辺に何かキーワードがあるかもしれないな。


まぁとりあえず、彼女をこの現実世界に転生させて、泳がせてみるしか確認できる手段はないな。』


こんな事を短時間で瞬時に考えた御厨は、


「まあ、ちょっと気になっただけだから、この件は気にしないでくれ!!」


とレイに言って、この件についての話をあっさり終わらせて、改めてこう言った。


「レイ君。話は分かった。それなら、僕のアンドロイドを君に一体あげるよ。」


「あっ?間違えた!君じゃなく、サナ君にだね!」

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