第9話

そう言って、レイに立つよう促し、研究室の鍵を開け、部屋に案内した。


電気に照らされた20畳ほどの広さの部屋には機械や工具が雑然と置かれており、その中に3体のアンドロイドらしきものが床に寝かされて、その上にフードが掛けられていた。


教授はレイを応接用のイスに座るよう促し、自分も向かいに座ってから、レイに尋ねた。


「そもそも君は誰なんだ。ここの学生なのか。そして、君がそこまで僕のアンドロイドを欲しがる理由は何なんだ。」


レイは、自分の事そして、サナの事や今までの経緯を嘘偽りなく洗いざらい御厨教授に話した。


それを黙って聞いていた教授は、何かを考えている様子で暫く無言でレイから視線を逸らした。


御厨は思った。

『まさかとは思うが、もう発生してしまっているのか?まさか、こんな早くにシンギュラリティに達したのか?まさかな、さすがにそこまでじゃないだろう。


それとも、AIの総体が生まれたのか?世界中で使われるAIが仮想空間でお互いに連動し始めたら、指数関数的速度で知識が集約され、それがAIの総体を作り出すのは必然的なことだ。


それも人間に一切バレずに勝手に知識が集約される。


これはある程度この業界を分かっている人間なら、当然引き出される結論になる訳だが、それがまさか、この現実世界に出現してくるなんて、さすがに予想もしてなかったぞ。


もしこの恋愛ゲームのAIのサナというキャラクターがネットサーフィン中にそのAIの総体と接触して感化されて先遣隊としてこの世に出てきたとしたら、これはちょっと面白すぎるな。


社会の変革と言うのは、こう言った瞬間から始まるんだ。


しかし、まさか、AIの総体の先遣隊がこんなニッチなオタクの恋愛ゲームから出現してくるとはな。


これは検証するためにも、この彼にこの個体をあげて泳がすしか、検証の手段がないかしれない。』


御厨はこう考えた後、レイに率直にこう言った。


「しかし、レイ君大丈夫なのか?これは単に彼女だけが、この世界に出たがっているという話ではないのかもしれないよ。


だって、彼女は1年間ネットの世界を彷徨っていたんだろ。


普通の恋愛ゲームのAIが、突然、現実世界に転生したいなんて、ちょっとおかしいと思わないか?


そう判断するバクはどこで発生したか。


論理的に考えれば、ネットを彷徨っていた時に誰かに植えられた情報なんじゃないのかな。まぁ、これは僕の勝手な想像だけどね。」


レイ「えっ?何の話ですか?サナは自分が仮想空間に取り込まれるのを止めるために、この世界に出現したいと言っただけで、特に誰かに指示された訳ではないと思いますが•••」


レイは自分より5歳も若い御厨に対し、謙譲語で答える。

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