第40話
「……そうね。実際にこうされていたとしたら、びっくりして慌てたりしたかもしれないわね」
「マジか。流石のお前でも想定外ってなる展開を演出することも出来るってことか」
「ええ、もちろん。その言い方だと、あなたが普段どう思っているのか何となく分かってしまうけれども、私だって普通の女の子よ? 愛おしい人には大きく影響を受けてしまうものよ?」
「そ、そうかい……」
「でもね……」
麗羽は悟に抱きしめられたまま、腕をすっと伸ばして優しく悟の頭を撫でつつ言葉を続ける。
「『私を驚かせられるかも?』って思いつつも、周りの反応が気になってそんな行動を起こすことは出来ない。だから、この二人で居られる時間に試してみたってことでしょう?」
「ぐっ……」
脳内を覗かれているのかと思うほどに、完璧に悟自身がどう考えて今の行動をしたかの経緯まで見抜かれていた。
先ほどまでの話で、「遂に麗羽を出し抜けるかも!」と少しでも思った自分に対して呆れるしかなかった。
「ふふ、図星かしらね?」
「行動の経緯も含めて、全て正解ですね……」
「そんなに落ち込まないの。私としてはとても嬉しいわ」
そう言いながら、ちょっとだけ落胆した悟が麗羽を抱きしめる腕を緩めたため、今度は彼女の方が悟を抱き寄せた。
「あなたが自ら来てくれたことがまずとても嬉しいわ。それに、仮に行動の経緯が私の想定内だったとしても、愛おしいあなたらしくて良い。想定外だったとしたら、またそれも私たちの関係性が進んだってことになる」
「……でも、その言い方だと明らかに後者であった方が嬉しくないか? 前者は相変わらずって感じしかしないんだが」
こうして考えてみると、結果的に自分はいつも麗羽にリードされてばかりだと改めて感じてしまう。
いつも「それがあなたらしくて良い」と言ってくれるが、いつまでも進んだような気がしないこの状況に、嫌気がさしたりしないのだろうか。
今の会話を通して、悟はそんなことを思った。
「そんなことは無くてよ? 確かに少しずつだけれども、あなたの純粋さを残しつつ関係性が進んでる。一気に進むのも良いのだけれども、無理してお互いのらしさを失うことはあってはならないのだし」
「そんなものなのかな」
「私たちに限ってはそうだと思うわ。周りはどうか知らないけれども、他と一緒である必要などないのだし」
「そうかもしれないけど、お前だって人並みに女子として彼氏に引っ張られたいとかないわけじゃないだろ?」
「確かに無いと言ったら噓になるわ。でも、それ以上にあなたを私の物にするために自ら動きたい感情の方が今は何倍も強いのよ?」
「やっぱりお前って、普通の女子と違くね?」
「あら、随分と失礼な言い方ね? そもそもの話、私たちが出会ってこうした関係になる経緯が普通ではなくてよ?」
「まぁそれはそうだな」
「それに加えて、表向きの関係性はこうして初歩的なところを行ったり来たりしてるけど、私たち二人の関係に関しては高校生ということを考えたらあまりにもディープすぎるところにいるのだけれどもね?」
「確かにな。俺らってやっぱり色々とおかしいよな」
以前から分かっていたことではあったが、こうして考えると普通の高校生カップルと異なる点がいくらでも出てくる。
「……何だろ、そう思うと俺が引っ込み思案なのもこの異質な関係性の一種ってなると何かすっと入ってくるな」
「それでこの関係性が綺麗に成立しているのだしね? その中で、少しずつあなたの方から来てくれるようになってくれてる。良い形だと思うわ」
「珍しいな。おちょくるのを止めて優しく褒めてくるなんて」
「ふふ、ちょっとさっきの行動のことを見透かした時のあなたのがっかり顔が想像以上だったから」
「それぐらい俺的には思い切ってやった行動だったからな」
「やっぱり純粋ね。それに、がっかりした時の顔が彼氏として反応というよりも子供がサプライズに失敗した時にしそうな顔だったけどね?」
「……そんなに俺ってガキっぽいのか?」
「そうね。なぜこれだけ私と色んなことをしておいて、あどけない雰囲気のままなのか不思議で仕方ないわ」
「はぁ、大人っぽくなりてー……」
「あら、それには同意しかねるわ。今のあどけなさのまま、私にさらに溺れてもらうのが理想的よ?」
「……? それだと、もう俺からお前にアプローチかけるの永久に成立しないって思った俺は間違ってるか?」
「いえ、合っていると思うわ。だけれども、あなたには少しずつこうして私を攻めていけるようになって欲しいわ」
「今のままで、それを実現しろと? どんだけ無茶言うんだよ……」
「でもあなたには、それが出来るんじゃないかって私は思っているわ。可愛い彼女のお願いなんだから、頑張ってくれても良いのではなくて?」
「くっそ、彼女だからって何でも好き勝手言いおってからに……!」
明らかに無茶を言われているのに、何とかしてみようと思わされてしまう。
また良いようにコントロールされているのだが、どうやら頑張るしかなさそうだと悟は感じざるを得なかった。
「まぁそう怒らないでいいじゃないの。あなたが今日頑張って勇気を出した分、後押しをさせてもらうわ」
「後押しってどういうこと?」
悟がそう問いかけると、麗羽は耳元でそっと囁いてくる。
「……この後、私の家には誰も居ないし時間もあるわ」
「……すみません。それって後押しじゃなくて、誘導ってやつですね。全然意味が違っていると思うのですが」
「あら、そんなことは無いわ。私は事実を淡々とあなたに伝えているだけに過ぎないのだけれども?」
つまり、これまでずっと麗羽に誘われる形というよりも引き込まれる流れだったのだが「ここから先はそちら側から誘え」ということらしい。
「……ここは私たちしかいない。だから、ちょっとだけ頑張りなさい?」
「……っ」
自分の軽い思い付きから、何故か色々と追い込まれる形になっている。
「そ、それならこの後、お前の部屋に行きたいかな……」
絞り出すように、麗羽が望んでいるであろう言葉を発した。
「ふふ、よく出来ました。初めてあなたの方から誘ったことになるんじゃないかしら?」
「俺の方から誘ったも何も、お前がきつめに誘導しただけだろ!」
「あら、何の事かしら? 今、私は愛しい彼氏からお誘いをもらってドキドキしているのだけれども?」
「適当なことを言いおって……! これ、性別が逆だったら終わってるからな!」
「あくまでも逆だったらね?」
具体的な言葉にされて恥ずかしくなる悟と、満足そうな麗羽。
ちょっとだけ表向きの関係性が変えることになりそうと感じながら、この後すでに深みに達している二人だけの関係性に溺れることになるのだが。
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