公爵家七女の嫁入り後 ~夢の中の出会いから~

UD

第1話 処刑される私

「申し訳ございません」


「どうしても私を断罪しなければならないのですね」

「……はい」


 どうして彼は謝っているのだろう?

 彼は誰なんだろう?


 今から処刑されるはずなのに、それよりもそんなことが気になっている。


 彼の格好は騎士?


 それに彼の持つ剣。

 その青い鞘に付いている紋章は名門エディンガー家のもの。

 

 王族を守るはずの上級騎士がなぜ私の処刑を宣告するの?


 この地域で反乱が起きてからもう一年近くになる。

 三カ月前、反乱軍はここロセンデル城に攻め込み物資を強奪し、私はこの城に幽閉された。

 その間、お風呂にも入れず、髪もとけず、食事は粗末なものばかり。お父さまもお母さまも無事でいるのかさえ分からない。


 私の身の回りの世話をしてくれる者は時々来てくれる元メイドのレミアだけ。

 それ以外はただ投げるように渡されるわずかな食事を摂るだけの生活。


 そして今日、私は民の前で公開処刑されるらしい。


「最後に何か言い残すことはありませんか?」

 その言葉に私は自分の心の内を見つめなおす。


「一つだけお願いがあります」


「何でしょうか?」


「もし私が死んでしまったら、せめて死体だけは丁重に葬ってください」


「分かりました。約束します。必ず、かならず!」

 そう言って騎士さんは立ち去った。


 ああこれで終わりだわ。

 でも不思議ね。死ぬのは怖くない。むしろ心がとても穏やかだった。

 きっと私は疲れていたんだと思う。


 毎日、毎晩、反乱軍が攻め込んできて、城の者は殺され、私の身の安全など保障されない日々が続いた。


 私はずっと怯えながら過ごしてきた。

 だけどもういいよね。


 今日、ここで私は殺されるのだもの。そして私という存在はこの世から消える。

 それでいい。


 だから目を閉じて最期の時を待つことにした。


 しばらくするとギラギラと目を光らせた男たちが現れ、私は城下町の広場に連れていかれた。

 城下に行き、処刑台に連行されるまでも聴衆が私を殺せと叫んでいる声が響いている。


 この期に及んで騒ぎ立てるつもりはないけれど、私はそんなにこの民たちにひどいことをしてきたのだろうか?

 それとも聖王国の治世が間違っていたのだろうか?

 もしかするとお父さまがこの地を治めていたという事が私の罪なのだろうか?


 私はなにも知らない。

 私はただ毎日を無為に過ごしていただけ。


 どうして反乱が起きたのかも、聖王国の何が悪いのかも、そして私が殺されていく姿を待ち望んでいるこの民たちの憎しみも。


 分からないことだらけだ。


 それを知る術は私にはないけれど、私は目を閉じたまま死を受け入れようと思った。


 もっといろんなことを知っておけばよかった。


 そんなことを考えていると、最後通知をしてきた騎士さんが近づき

「では、これから処刑を執り行います」

 と宣言した。


 ああやっと終わるんだ。


 そう思って目を開けるとそこには涙を流しながら青い剣を振り下ろす彼の姿が見えた。


 なぜ泣いているの?


 この三カ月、私はもう死んでいるのも同然だった。

 だって誰も私の話を聞いてはくれなかったから。


 でも目の前の騎士さんは泣いてくれている。

 それだけで充分だと思えた。

 

 ありがとうございます。

 ずっと私を見捨てずにいてくれたミレナ。

 

 名も知らぬエディンガー家の騎士様。



 あなたのおかげで私は救われました。

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