夢魔は今夜も眠らない
星宮林檎
第1話 プロローグ
俺の名前は、天野朔夜。『夢魔』——
〖数か月前 冥界〗
「モルペウス。最近の人間界は、一体どうなっているのだ? 」
そう呟いたのは、冥界の王ハーデス。東洋で馴染みのある言い方でいえばあの世の神様。差し詰め、「死の国の王」といった所であろうか。
「天野朔夜」こと、モルペウスは悪びれる様子もなく冥界の黒い大理石の壁にもたれ掛かり煙草をふかしながら面倒くさそうに答えた。
「どうもこうも無いですよ、医療も日進月歩の勢いで進化してますしね。アスクレピオスもびっくりでしょう。そりゃあ、冥界に魂が来るペースも遅くなりますよ」
ハーデスは苦虫を嚙み潰したような顔で、右手の人差し指で落ち着きなく玉座の肘掛の先をトントンと叩いていた。相変わらず冥界(ここ)はじめじめして暗い気がする。
「冥界としては魂の入りが少なくては、商売あがったりでしょうけど、それこそ俺の知ったことじゃ……」
「たわけものっ! 」
モルペウスは一瞬ビクッとして、煙草の灰を冥界の床に落としてしまった。
「そんなに怒ることないでしょ」
「これが怒らずにいられるか!ここは禁煙だ!ゴホン。 そもそもが、だ。これはお前が発端なのだぞ? 」
(やれやれ、またその話か……)
「あー、はいはい。だいたい、タナトスが人間の女に恋をして、謹慎処分になってることが原因だってんでしょ?死神が人間の女に魅入られてどうするんだか」
「馬鹿者!そもそもお前が人間界での話など、冥界(ここ)で楽しそうにするからこのような事になったのだ。そうでなければあの真面目一筋のタナトスが何故駆け落ちなんぞ……」
そこまでいうと、ハーデスは深いため息をついて顔を両手で覆った。
「もうよい、早く人間界に戻って、もう一つの任務を果たしてくるのだ。我妻を、ペルセポネーを一刻も早く冥界(ここ)へ……」
「御意」
モルペウスは片膝をついて一礼すると、冥界から姿を消した。
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