君がスキ
「ねぇ~
入学式、たまたま席が前後だった香織が話しかけてきた。
学科が理学部ということもあり、女子の数はとても少ない。さらに高校からエスカレート式に入学してきた子たちは、そのグループでつるんでいるからなかなかその輪の中に入りづらいのが現状だ。
その中で、私と同じ境遇の香織とは初日から意気投合した。
「う~ん。この中から2科目だよね~」
私はどんくさい。どれも出席してるだけで単位が取れるなら、正直どれでもいいって思っていた。今オリエンが実施され、何を受講するかで教室内がざわざわしている。
私は少し後ろの席が気になっていた。
「
「俺? 俺は…、そうだな~。剣道とバスケかな」
ある男の子の声が耳に入って、私はドキッとする。暖かく包み込むような、やさしい声。
その時、私の心は決まった!
「剣道とバスケにする!」
こうしてどんくさい私が、バスケなんて一番縁のないものを選ぶことになったのだ。もちろん親友の香織も一緒に。
初めて彼を見た時、なんて可愛い顔の男の子がいるんだろう?って思ったものだ。教室の中で彼だけが光りを浴びているような、そんな衝撃を受けた。
「俺の顔になんかついてる?」
どうやら私は彼をガン見していたらしい。
―― きゃーきゃーきゃーっ。どうしよう。どうしよう。どうしよう…。
「あ、えっと…ごめんなさい。ぼーっとしちゃった」
今思えば、もっと気の利いた言葉を伝えられなかったのだろう。せめて印象に残るような素敵な言葉を。
というか、私のバカ! なんでガン見なんてしてんの!!
そう、私は彼に一目惚れをしたのだ。
「ねぇ
「うーん。あんまり大人数でワイワイするの…苦手なんだよね」
「知ってる(笑) でも、せっかくの大学生活! 楽しまなくてどうする!?」
ある日香織が食堂でそんな話をし始めた。周りの子はそろそろカップル成立なんていうのもざらである。
理系の女子はモテる。そんなのは都市伝説だ。
私は少し不満げに、アイスコーヒーのストローで遊び始めた。
「ま、無理強いはしないけどね。
「えっ? 何それ?」
狙うだなんて失礼な。あの笑顔を遠くで見守れるなら、それで十分なのだから。
「分かりやすいね。そんな分かりやすい態度をしていると、そのうち本人も気づくかもね~」
「ちょっと、やめてよ」
「あはっ。冗談冗談。ま、本気ならちゃんとしなよ。3年になったらそれぞれ専攻が決まるし、
「う…」
そんなことは分かってる。話してみたい。友達になってみたい。一緒にランチ食べたい。一緒に勉強したい。一緒に映画も見たいし、ドライブもしてみたい。って思うよ。
でも…、1つクリアしたらもっと、もっとその先も願いがどんどん増えていく。キリがない。
それに彼女がいるかもしれない…。地元に残した遠距離中の彼女が。
「彼女とか、いそうじゃない? あんなにカッコ良くて優しげで」
「うーん。本人に聞いてみたら?」
それができれば苦労はしない。いいの、私は遠くから見ていられるだけで幸せ。
本当にそうなのだろうか。
次はバスケの授業だ。私たちは急いで体育館横の更衣室へ向かう。
私の心は既に浮かれていた。だって、スポーツウェアを着た
「今日はチーム分けをしてテストだ。2人ペアになってパスを受け取ったものがシュートを決める。5本中1本でもシュートが決められたら合格」
体育の先生は、腰にバスケのボールを抱えながら、さも簡単という感じで話をする。シュートなんて入れられたためしがない。合格点なんてもらえる気がしなかった。
円陣の反対側にいる
―― えっ? 何々? 私に? わたし??
私は
あぁ~神様。ありがとうございます!
それだけでよかったのに、神様はこの後私にさらなる試練を課してきたのだ。
な、なんと私は
どんくさい私が、
「香織~…どうしよう。緊張してきたーーー」
「ま、がんばれ」
香織は100%楽しんでる。あぁ~
テストが始まった。
「ナイスアシスト! 神代サンキュー!」
「ナイスです!」
こんな近くでゴールの瞬間を見れるなんて、私は幸せ者だぁ~。
「次は神代だな。頑張れ」
「う、うん」
私はバスケのボールを受け取り、定位置についた。斜め前には
どんくさくて緊張症の私は、手が急激に冷たくなり、全身の血が引いてくる感覚に襲われていた。思う様に体が動かない。どうしよう。
ピッ。
ホイッスルが鳴った。私は
カラン、カラン、カラン…。
ボールはネットを揺らすことなく遠くへ落ちた。
「どんまい!」
「う、うん」
2本目、3本目、4本目、失敗。
どうしよう。次外したら単位を落とすのかもしれない…。それよりも、
ゴン。
「いたっ」
下を向いていた私に
「緊張しすぎ。大丈夫だから。俺のパスを信じて。1、2、3でゴールポストの下から上になげればいいから」
「小野寺くん…」
私は泣きそうだった。恥ずかしいやら、うれしいやらで。
「ゴール決めたら、飯奢ってやるよ。お前食べてる時幸せそうな顔してるもんな」
「えっ?」
「お前たち! はじめるぞ。ラスト1球だ」
ピッ! 最後の1本がスタートした。よし1、2、3、ボールを投げる!
カラン、カラン、カラン…。
―― 入れ! 入れ! お願いっ。
シュポ。
「ナイス!」
「は、入った」
ボールは見事ネットを揺らし、奇麗的に垂直に落下した。
緊張感が溶けた私は、馬鹿みたいに涙目になっていた。
「な、俺が言った通りだろ? よくやったな」
すごく幸せ!
スキ。
私、やっぱり
END
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