リストラ

西山鷹志

第1話 泥酔して殴られ金を奪われた

 新宿の繁華街から少し外れた路地裏を、中年の男が酒に酔ったのかフラフラと薄暗くなった道をゴミ箱に当たってよろけた。 

 ネクタイは曲がってワイシャツも背広もヨレヨレだ。

 そんな所へ獲物を狙った街の、狼の群れが見逃しわけがない。

 「おっさん大丈夫か。ヘッヘヘ家族が待っているだろう。心配しているだろろうから、さぁ俺達が送ってやるぜ」

 何処から見ても真面目な若者には見えない。四人の連中に囲まれた。

 「なっなんだ。おまえら! 俺の気持ちが分かってたまるか。あっちへ行け!」

 「オイオイ、おっさん親切に言っているのに、それはないだろう」


 中年の男は、あっと云う間に若者達に袋叩きにされてサイフを奪われてしまった。

「チキショー!! どいつもこいつも俺をゴミ扱いにしやがる。俺がなんでリストラなんだ。いったい俺のどこが悪いって言うんだ。チキショーこうなったら皆ぶっ殺してやる」

 だが周りにはもう誰も居ない。負け犬の哀れな遠吠えが虚しく路地裏に響くだけだった。大学時代はラグビーをやっていた。体力には自信があったから一人や二人なら負けはしない。だが今はそんな気力もない。精神的に心はズタズタで殴られた方がよほど楽だ。心の傷よりは……。

 真田博之(さなだひろゆき)は会社から突然リストラ勧告を言い渡された帰りだった。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る