第2話 日常

「おはよーございまーす」

「おはよー待機で」

「りょーかいです」


お決まりの挨拶の後、待機室へ向かう

「うぃーす」

「おはよーっす」

先人が2人

これは自分が事務所スタートの仕事の3番手を意味する

(朝から仕事ないやん…だる)


配車席に陣取る配車マンに声掛けする

「バイク洗ってていいです?」

「えーよー すぐ呼ぶかも」

「りょーかいです」


個人事業主のバイク便ライダーにとって配車マンとの関係は重大事項だが、それほどウェットというわけでもない

むしろドライだ

仕事をこなせる奴が生き残っていく

それだけ


バイク便ではバイクを水洗いしたことは殆どない

理由は仕上げに時間がかかりすぎるから

業務中のメンテナンスは仕事にとって命取り

配車マンに呼ばれて出られなければ次のライダーに振られていく

社内ピットでタンクを軽く拭き上げしてると事務所から

「〇〇ー!」

とがなる声がする

「はーい!」

「北浜の〇〇さん行ってー メール送るー」

「りょーかいです!」


仕事の指示はこれだけ

先に待機してた二人に動きなし

これは…

ロングの予感!


順番飛ばしはこの業界ではよくある

つまり、配車マンにとって使いやすい奴が優先的に生き残るシステムなのである

使いやすい奴とはなにか

・仕事をミスなくこなす

・事故・違反をしない

・どんな仕事でも快く受ける


私はバイク便の経験が全く無いままに大阪へやってきた

大阪の道も全く知らない

御堂筋くらいか、口で言えたのは…

それが一方通行なのも知らなかった

そんなズブの素人がバイク便の世界で生き残るには…

仕事を選んでなんていられない

どんな嫌がられる仕事でも率先してこなす

これしかなかった


北浜の〇〇さんといえば、自走なら近畿一円、ハンドキャリーやエアハンドなら日本全国に行く仕事を持っているお客さんだ


待機室で漫画を読んでる先人二人に軽く会釈してSPADAで北浜へ向かう

「朝から調子ええんちゃーう?」

ワクワクしながら狭い路地をSPADAで踊り天六の交差点に飛び出す

道路の混み具合から次に停められる交差点を推測

「ナンモリまでは届かんなぁ」

青と同時にスロットルオン

朝の天神橋筋はわりと走りやすいが、天六スタートで南森町を突き抜けるには推定〇〇○キロ出ていないと届かない

後に書く、それを間に合わせる変人もいるのだが、私はそういう走り方を好まない

南森町の交差点は右折矢印が出るタイプで、約7秒の猶予がある

その7秒の間に右折に飛び込めれば良いのだ

飛び込んだあとはすぐに左折し、路地へ

路地からまた天神橋筋へ出れる


バイク便の走り方は三通りある

一つはイメージ通りのぶっ飛ばし型

真っ昼間の御堂筋を推定150オーバーで抜けていく他社ライダーを見たことがある


もう一つは平均速度重視型

トップスピードは至って普通なのだが、目的地までとにかく止まらない

すべての信号のタイミングや周りの流れを読み切って走る玄人型の走り方

私はこのタイプが好きだった

好きなだけで、やれてるとは言ってない

最後にミックス型

これは状況に応じてぶっ飛ばし型にも平均速度重視型にもなれるオールラウンダー

ベテランと呼ばれるライダーはほぼ全員がこのタイプ

私の憧れの「23」も間違いなくこのタイプだった

ま、おいおい書くとして、北浜の〇〇さんの前に無事到着

メールを開けると業務内容が飛んできている

「お!新潟?てかエアハンド?」

エアハンドとは飛行機を使用したハンドキャリーのことである

ハンドキャリーは荷物を受け取ったライダーが手荷物品として公共交通機関を使用して届けるサービスの総称である


メールを元に伝票を起こし、荷物を受け取りに行く

小さい小箱が一つ

ピーガッ

「45受けましたー」

「りょーかい電話ください」

「りょーかいです」

通常なら荷受けの報告の後すぐに走り出すのだが、細かい配送指示があるときは個別電話で応対する

「〇〇ーこれエアーで」

「分かりました伊丹ですか?」

「うん、10:15までに搭乗口行っといて」

「(20分ほどしか余裕ない…まじか)りょーかいです」

流れるように自分の行動予定が決められていく

伊丹空港まで猶予は約20分

バイク留めて航空チケット買って搭乗口までのことを考えると15分で空港についていないと厳しいルートなど考えている時間はない

反射的に阪神高速環状線の最寄りの乗り口から飛び乗って空港線を爆走するしか間に合わないのだ

SPADAは高麗橋乗り口へと向かっていた







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