ルールブルー
川上水穏
月かたぶきぬ 1
流行りの曲のギターのイントロが街を駆けぬける。ビルの谷間にどこから流れこんできたのか、桜の花びらが落ちていく。つむじを伴い、ぐるぐると谷間へ、路上へと落ちた。花びらの先を眺めるとビルの側面に巨大な広告が掲載されている。
あーあ、あんな顔になりたかったなぁ。
スマホに指を滑らせる。公式アカウントを運営してるSNSのイソスタグラムだ。五年前のSNS開設時から毎日欠かさない投稿に「好きです」だけのメッセージをくれる方がいて、嫌なことを思い出したときはその人のメッセージを見返すようにしている。どんな人なんだろう? 34292431-1111-3226さんって。好意を向けてくれる相手のことを考えると楽しくなれる。きっと一度も会うことのない人生だろうけど、ファンが好きだと言ってくれるならそれで安心できる。そのメッセージは朝に確認する。遅い時間に送信されるそれはきっと夜更かししてもいい大人の証拠だ。男性か女性かもわからない。人のカタチをしていることはわかるけど、髪型や体型や服装なんかはまったく想像できない。どんな人なんだろうか。
イソスタグラム開設の条件は四つあった。一、嫌な思いをしたメッセージには真面目に取り合わない。二、嫌なメッセージが来たらマネージャーに相談する。三、何度も続くようならシャドウバンやブロックをマネージャー権限で行う。そして最後にファンへのメッセージには返信しない。どんなに良い気分になっても、そうしたいなら契約を解消する、とまで言われ、親とも書面で契約を取り交わした。
イソスタグラム開設の目的は二つで、一つは雑誌の発売日情報を発信する。オフショットや仲良しのモデルとの写真を投稿すると、アクセス数もイイね数もコメント数も増えた。だけど、一方で相手の人気にあやかっているようで自分の実力の無さを悔やんだ。二つ目は、私が仕事に対する感想を書ける場所をつくること。子役をやってた頃は、これができてなかったのではとマネージャーの関山さんに指摘された。
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