お顔が天才な彼氏が出来たけど、何だか様子がおかしいようです。

音央とお

面食い女子、告白される。

気付いた時には面食いだった。

ママが言うには、3歳からテレビに齧り付いてアイドルや俳優に夢中だったらしい。高校生になった今でもそれは変わらず、妹と共有の部屋の一角にはアイドルのポスターが飾られている。


「今日は15日だから本屋さんに寄っていかないと」


愛読している雑誌の発売日という事で、朝から楽しみにしていた。10代から20代の女子をターゲットにした芸能雑誌で、旬の俳優からアイドルの青田買いまで出来る。私は専ら男性アイドルのグラビアが目当てだけど、国内外の女性アイドルのスナップ写真も可愛くて楽しい。顔が良い人達は眺めているだけで心の栄養となる。


「電車、5分遅れかぁ……」


頭上の電子掲示板を見上げて呟く。

学校の最寄り駅は複数の高校・専門学校の生徒達で賑わっていて、電車の遅れに文句を言っている声が聞こえてくる。

アイドルのインスタを眺めていればあっという間に過ぎる時間なので、私はスマホに夢中になっていた。


「あの……」


聞き覚えのない男子の声。


「ちょっといいですか?」


喧騒の中でも聞き取りやすい声に振り向くと、他校の制服を着た男子が立っていた。目線を上げないと顔が見えないほど身長差がある。ちらっと一瞥しようとするが、私は雷に打たれたような衝撃で固まった。

マスクで顔の半分は隠れているけど、切れ長の目が美しくて顔が小さい。少し茶色い無造作へアが様になっている。


「な、なんでしょうか!」


あまり同年代の異性に免疫がない人間には刺激が強すぎて、吃ってしまうのは許してほしい。学校にもイケメンといえる先輩達はいるけど接触なんてしたことがないし、こんなイケメンに話しかけられるなんて人生初ではないだろうか。


「一目惚れです。彼女になってください」

「……」


首を傾げる。漫画みたいなことを言われたけど、聞き間違いではないだろうか?


“一目惚れ”なんて絶世の美女でもない私が言われるはずもないセリフ第1位であるはずなのだ。彼女になって欲しいとか聞こえた気がするのだが、本当は何と言われたんだろう?


「難海高校1年の白雪と言います。もし彼氏とかいないなら、チャンスをください」


こちらに向ける真剣な眼差し。

これは聞き間違いでも、からかいの可能性も低いのではなかろうか?


電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。早く何か答えないと……!

混乱した私の口から出てきたのは、


「……あのー、マスクを外して貰ってもいいですか?お顔をちゃんと拝見したいです」


マスク美人の可能性を確かめたい願望だった。面食いでごめん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る