第5話 紹介
重厚な扉が音を立て、開き(もちろんそこには誰も居ない)ふわりと百合の花の香りがした。
「素山様、お久しぶりです。妻の瑠璃子です。」
素山は正直逃げ出したかった。理屈では片付けられないことが目の前で起きている。
素山はどちらかというと理系の考えの持ち主だ。
頭の中で理解が追い付かない。
辻が笑って「俺の彼女も紹介するよ」と言った。
「照れ屋だからな、出てきてくれるかな。おいで、朋。」
店の端が光った。うっすらと人の形が見える。
素山は重い口を開いた。
「出てくる場所は違うんですか?その、時々によって」
「瑠璃子さんはいつもドアから入ってくる、朋は部屋から出てくることが多いんだよ。お転婆だからかな」
「なんで朋さんってわかったんだ?」
「甘えてくるんだよ。あの頃みたいにな。それに匂いでわかる」
素山が思っているより辻は朋を愛しているようだった。
それから急に寒気に襲われ、素山は家に帰ることにした。
刺激が強すぎたようだ。
いつもは家に帰る手前で少しの緊張が走るのだが、その日は早く帰りたくて仕方がなかった。
見えざるものに挨拶をし、マスターと辻には体調があまり良くないと告げた。
逃げるようにBARをあとにした。
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