#12



カズと2人でスパリを大いに楽しんだ。



流れるプールを逆走し、カズが足をとられてもがきながら流されて行った。


人が少ないウォータースライダーを無駄に周回マラソンして滑りまくり、着水に毎回失敗するカズは毎回プールの水を飲んでいた。


大きな滝のあるプールで滝修行ごっこしたら、カズは「こんなんいつまでだって出来るし!」と調子に乗ったのでとりあえず沈めておいた。


そんな具合にスパリを遊び倒していく。



「サツキー!喉乾いたー!なんか飲も!」


「あんだけプールの水飲んでたのに喉乾いたのか?」


「それはあれでしょー!別腹、別腹!」


「スイーツは別腹みたいに言うなし」


「あれ!パイナップルのヤツ!あれ飲みたい!行こ行こ!」



引っ張られるようにしてパイナップルのヤツが売っている売店に向かった。



カズの言うパイナップルのヤツとは文字通りパイナップルジュースの事かと思われる。パイナップルを丸ごと1個くり抜いて作られたフレッシュジュース。そのままパイナップルが器になっており、南国感溢れるスパリ人気ナンバー1の飲み物である。



「いいけどアレそれなりに高いが?」



ちなみに値段は1個950円である。飲み物1杯にしては高いが、パイナップル1個と考えれば妥当ぐらいの値段設定。



「奢って!」


「貸しな」


「えーっ!一緒に飲むんだからいいじゃん!奢ってよ!」



確かにパイナップルジュースは丸ごと1個使ってるだけあって、それなりの大きさで、さらにデフォでストローが2本ついている。


ということは……やるのか?アレを……バカップル御用達のひとつのジュースを2人で飲むアレを……。


いや……よくよく思い返してみれば、前来た時に2人で飲んだことあったわ……。前の時はどっちが多く飲むか取り合いしていた。


それでアレだ。食い意地のはったカズが思いっきり吸い込んで、むせって、俺の顔にパイナップルジュース吹き出したんだったな。思い出してきた。


既に経験済みだった……抜群の今更感。



というわけでパイナップルジュースを買ってきた。勿論、俺の金で。まぁ、たまにはいいか。



「いただきまーす!ずぞぞぞぞぞっ……!」



売店近くのテーブルに座るや否や、カズはストローにしゃぶり着いてパイナップルジュースを飲み始めた。音が汚い。



「おいカズ。あんまり勢いよく飲むとーー」


「ごふぉおっ!!!」



カズはパイナップルジュースを吹き出した。


俺の顔面に向けて。


予想はしていたが、あまりに早すぎるタイミングでの吹き出しだったので、流石に避けられなかった。

はぁ……パイナップルいい匂い。めっちゃベタベタするわ……。



「カズテメェ! 性懲りも無くまた俺の顔面にぶっかけやがって!」


「あははははっ!パイナップル塗れじゃん!うっわぁサツキきったねぇっ!」


「きったねぇのはテメェだ!バカがっ!笑ってんじゃねぇ!」



ゲラゲラと俺を指差して笑うカズ。キレそう。いやもうキレたわ。



「ほらっサツキ!プール行ってパイナップル落としてきなよ!その間にコレは僕が全部飲んどいてあげるからさ!」


「ざけんなテメェ!もうコレはオマエにはやらん!あとは全部俺が飲む!」


「はぁー!?コレ僕のだよ!心優しい僕が哀れなサツキに分けてあげるって言うのに、それを全部飲むとか無いでしょ!」


「俺のお金で買ったものなんですが!?」


「奢って貰ったからコレはもう僕のモノなの!サツキのじゃないの!」


「このガキャ……!」



そうして行われる不毛なパイナップルジュースの取り合い。ギャーギャー!と2人で騒いでパイナップルの器を手にして引っ張りあう。


そして……。



「「あっ……!」」



バシャーンッ!



案の定と言うべきか、ひっくり返して中身を全部ぶちまけ、それを2人揃って頭から被った。



「サイアク……」


「こっちのセリフなんだが?」


「「…………」」



パイナップル塗れになった俺とカズは無言で睨み合った。



そしてなんかキスした。



「パイナップルの味するわ」


「そりゃパイナップル塗れだしな」


「なんかちょっと塩素の味もする気がする」


「そりゃさっきまでプール入ってたしな」


「勿体ないから、とりあえずもっかいしよ」


「しょうがねぇな」



冬場のスパリは人が少ない。閑散とした施設内。それをいい事に暫くキスしていた。知り合いに見られる心配も特に無いだろう。


店員さんにはバッチリ見られていた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る