#10



「ブール行きたい」


「冬だぞ?」



バカがなんか言い出した。



12月31日、大晦日、早朝。早いもので、今年ももう終わりである。


季節は当然ながら、冬。吐いた息は部屋でも白くなるクソ寒いこの季節に、我らがアホガキは何を思ったのか唐突にプールに行きたいなどとほざいた。



「夏にはさ。クソ熱くて辛い、キムチ鍋とか食べるじゃん?逆に」


「まぁ、そんなことをしないこともないな。俺はあんまりしないけど」



暑い季節だからこそ熱くて辛いものを食べるみたいな事は聞いたりする。



「そんでもってさ。冬にはコタツに入って冷たいアイス食べるじゃん?逆に」


「まぁ、それは1種の定番みたいなところあるな。俺はあんまりしないけど」



これまた寒い季節だからこそアイス食べるみたいな事は聞いたりする。温かい部屋ではアイスが食べたくなる的な。



「だったら寒い季節にプール行くのってありだと思うんだよね。逆に」


「えぇ……そこはプールより普通に温泉とかの方がいいんじゃないか?」


「サツキってさー。バカだよね?」


「なんだ急にテメェ。絞めあげんぞ」


「温泉はさー。男湯と女湯があるよね?」


「そりゃ当然な」


「一緒に行っても入るの別だよね?」


「混浴でもなけりゃ別々になるな」


「でもプールだったら一緒に入れんじゃん」


「まぁ……そうだな」


「一緒に温泉行っても結局別々だよね?でもプールだったら一緒に居られるけど?それでもプールより温泉の方がいいの?」


「……プールの方がいいかもな」


「でっしょぉお?やっぱプールの方がいいよね!ほらっ!やっぱり冬はプールなんだよ!」



渾身のドヤ顔でカズは言う。非常に殴りたくなる顔をしている。いや殴りはしないんだけど。



「んじゃスパリ行こ」



スパリーースパリゾートの略である。わりと近くにある、いつでもプールに入れるレジャー施設。温泉の持熱を利用していて館内は1年通して南国の楽園。冬でもプールで遊べる所だ。



「今日?っていうか今から行くのか?」


「すぐ行きたい。行こ」


「今日は大掃除する予定だったんだけど……」


「そんなん明日やればいいじゃん!」


「元旦に大掃除ってどういうことやねん」


「いこうよー!プール!プール入りたいー!いこ!いこ!」


「だー!うるせー!暴れんじゃねぇ!わかった!行くから大人しくしろ!」


「やったぜ!」


「でもオマエ、スパリそれなりに入場料高いけど金あんのか?」


「無いけど。明日お金入るから。サツキお金出して」



明日は元旦だ。つまりお年玉を宛にして俺から金を借りて行こうって所か……。



いやちょっと待て。



「俺から金を借りて、明日お年玉で返すって事でいいな?それなら”貸して”やるけど?」


「お、お金は大丈夫!だから出してよ!」


「貸す、な?」


「ぐぬぬぬっ……。わかった……貸して……」


「ちゃんと返せよ」



小賢しいなコイツ。


カズはお金を出してと言ったが、貸してとは言わなかった。


どーせ「借りるなんて一言も言ってないから返さないけど?あれってサツキが奢ってくれたんでしょ?」なんて駄々こねるつもりだったんだろうな。


このガキは変なところで悪知恵を働かせやがる。だがしかし引っかかってやるつもりは無い。



そんなこんなで大晦日、クソ寒いこの季節にカズと2人でプールに行くこととなった。




自宅から駅をふたつ越える。人気レジャー施設のスパリには駅前から直通でバスが通っている。それに乗り換えて、昼前にはスパリに到着した。



「うわぁっ。やっぱスパリん中、あっつぅー!南国じゃん!」



受付を済ませて中に入る。自動ドアが開くと同時にぶわりと夏の熱気が全身を包んだ。


スパリの施設内の季節は1年通して夏真っ盛りである。ここだけまるで別世界みたいだ。


オブジェで飾られている南国の植物は本物だし。アロハシャツにハーフパンツの従業員に、水着姿の利用客が歩いている。あっ、フラダンスの人も居た。



「んじゃサツキ!水着着替えて流れるプール集合な!」










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