斜陽の軍国
紅林ミクモ
プロローグ
1941年12月7日真珠湾
とある海兵の手記である
俺はその時、戦艦ウェストバージニアにいた。
近くの飛行場が激しい音を立てると共に、日本……ジャップの攻撃が始まった。まず、低空で侵入した雷撃機によって魚雷を受けた。けたましいレシプロエンジン音が聞こえては直ぐに、激しい衝撃が襲った。その衝撃は今でも覚えている。
(中略)
海に投げ出された時は流石に参ったが…俺は何とか生き残った。その日の夜は航空燃料によって火だるまにされたウェストバージニアで、夜の明かりに困ることは無かった。……屈辱だ。
(中略)
破壊された我が軍の戦闘機の残骸を、アリゾナ、オクラホマ、メリーランド、テネシー、壊滅した戦艦戦隊の悲劇を、
我らに神の御加護があらんことを……
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同日瀬戸内海桂島沖
「淵田飛行長より入電です!」
トラ・トラ・トラ——内容はこうである
「ワレ奇襲に成功セリ……」
山本五十六司令長官である。
「南雲の艦からの受信か?」
「いえ、淵田当機からの直接打電です」
真珠湾攻撃時、聯合艦隊司令長官山本五十六は、南雲機動艦隊に続き同時進行で行われているマレー半島における陸軍の輸送護衛任務が発動していた。
「報告は以上か?…では下がれ」
通信員が退室した後、数十分の休息のため長官室に入った。執務机の上はアメリカ合衆国を中心とした世界地図がそれを占拠している。
「東のドイツ、西の大日本帝国……」
その地図には幾本もの黒線が洋上を往来していた。その中でくっきりと濃く太線で、グアム、フィリピン、ハワイ諸島を囲み、それらを繋ぎ合わせて出来た見事な一本線が、あたかも北方の日本を塞いでいるかの様に見える。
「………」
しかし今、彼の目線の先は、茫洋たる太平洋に浮かぶ孤島ではなく、満洲と朝鮮の境目、そして入り組んだリアス海岸に囲まれた天然の軍港———
旅順に向けていた
ーー続ーー
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