5.結末は変わる・・・話
シンデレラの家から少し離れた墓地。
そこに一本の木があった。
美しく堂々と立つその木に、多くの白い鳥が集まっていた。
俺は馬を降り、近づいていく。
鳥たちは、わめきながら俺の頭上を旋回する。
木の根元には、二人の少女。
一人は木に縛られており、もう一人は、こっちを見ながら笑いかける。
どちらも同じ顔、同じ背丈。
木に縛られている方が、きっと本物のシンデレラのはずだ。
「お前は偽者か?」
縛られてない女に聞く。
「はぁ〜。どうして気づかれたんだろう?結構うまく演じていたつもりなんだけどな〜。」
数時間前の弱々しさがなくなり、どこかふてぶてしい感じだった。
「せっかく新しい人生をこの世界で始められたのに…」
つぶやく偽シンデレラ。
「お前は誰だ!」
俺の予想だと転生者だろう。
「え〜そんなのどうでもいいじゃん!」
そう言って、俺を指さして言う。
「やっちゃって!」
頭上にいた鳥たちは、偽シンデレラの指示を聞いて、いっせいに俺めがけて飛んできた。
「くそ!」
俺は反射的に剣を抜き、鳥たちを振り払った。
だが、多勢に無勢。剣でいくら叩き落しても次から次に襲ってくる鳥たちの攻撃で、なかなか前に進めない。
「はあ〜〜。どうしてバレたのかな??」
のんきな声をだす偽シンデレラ。
「!そうか!グリムの方か。そっちは知らなかった!盲点だった。」
ブツブツ言う。
「あの王子も洗脳しなきゃ…。」
そう言いながら、本物のシンデレラ。
うなだれているシンデレラの髪をひっぱり、顔を上げさせる。
顔は痣だらけで、目も虚ろ。
偽は本物の顔を鷲掴みして、大きな声で言う。
「母親たちにはいじめられ、結末が偽者に殺される。いいバッドエンドじゃん。
私、小さい頃からあんたの物語が嫌いなんだよ。
最後に幸せになる?一発逆転? キモすぎるんだよ!!!」
その声色に、優しさを感じない。
「あんたはここで死んで、私が幸せになる!」
手を離し、俺の方に向き直る。
俺はというと、数百羽の鳥の攻撃で、体はすでに限界を迎えていた。
「さあー王子様。私のものになりなさ~い!」
王子の心はすでに砕けていた。
しかし、俺の心はまだ折れていなかった。
俺のモットー、『平凡は平凡なりに』だ。
腹に力を入れ、本物のシンデレラに向かって大声で叫ぶ。
「おい、シンデレラ!これでいいのか?こんな奴にこの物語を、いや自分の人生を奪われてもいいのか! お前が見つけた道だろ!なんのためにこれまで耐えてきたんだ!バッドじゃない。ハッピーエンドだ!自分の人生を他人に奪われて本当にいいのか!!」
「な、何を言ってるの?そんなんで洗脳が解けるわけないじゃない!」
いや、”洗脳”ならば、魔法のように解ける可能性がある。
心さえ死んでいなければ…
「ここで終わるな!継母も義姉たちも、お前の邪魔はもうしない!最後の力を振り絞るんだ、シンデレラ! 最後の最後に、お前の前に立ちはだかるのはそこの偽シンデレラだけなんだぞ!!」
俺の呼び声に反応したのか、かすかに体を動かすシンデレラ。
童話に登場する人物の心の底にある想いまではわからない。
だがきっと、本の中でその与えられた役割、本の中の人生を必死に生きようとしているはず。
俺みたいな平凡な奴は、童話の中のシンデレラみたいな人物に憧れる。
だが、嫉妬はしない。
一人一人に人生、一人一人に物語がある。
それを精一杯、自分らしく生きるしかない。
だから、シンデレラ。
君に、こんな所で終わってほしくない。
だから・・・答えは決まっている!
「継母は死んだし、義姉たちはもう目が見えない」
俺がそう言うと、シンデレラが顔を上げ、微笑んで言う。
「本当?」
「本当だ!」
洗脳が解けた!
「な、なんで解けたの!」
慌てる偽シンデレラ。
心の奥底に眠る本当の想いは、”洗脳”で誤魔化されるほどヤワじゃないってことさ。
大きな声で俺は繰り返した。
「ああ、本当だ。継母は、今朝死んだ。義姉たちの両目は、鳩によって突かれた。後はお前と王子の結婚式を執り行うだけだ。王子もみんなもそれを待っている」
シンデレラが身をよじる。
俺は手にしていた剣を彼女に向って投げ、縛っていた縄を切った。
「ど、どうしてよ。な、なんで!」
後ずさる偽シンデレラ。
縄がほどけたシンデレラは、体を少し動かし、偽シンデレラに向き直る。
「どうしてって、それが必然だからよ!鳥たちよ、この女を殺って!」
俺を攻撃してきた鳥たちは、今度は、一斉に偽シンデレラの所に向かう。
「や、やめてーーー!!!」
鳥たちのくちばしが、無防備な偽シンデレラの体に無数の穴を開け、突き刺さる。
血で白い鳥たちの全身が赤く染まっていく。
「なぜ、なぜ…。あいつが勝つの…」
王子の体の中で俺の感覚がだんだんなくなる。
偽シンデレラは俺の方を見て言う。
「お…前…は?」
俺が答える前に、偽シンデレラは崩れ落ちた。
俺自身もだんだん浮遊するような感覚に襲われる。
下の方を見ると、シンデレラと王子が立っていた。
「私を邪魔する人は、もう、誰もいない。ハハハ。」
大きな声で笑いながら、涙を流すシンデレラ。
その場に力尽きたように倒れるシンデレラを王子が抱きかかえる。
空を見ながら王子は言った。
「ありがとうございます!」
俺は答えることなく、二人を空から見守る。
しばらくして王子も、鳥たちの攻撃のせいか力尽きて倒れた。
周囲の鳥たちは、ふせっている二人を囲むように集まり、鳴いていた。
やがて、城の衛兵たちに二人が保護されるまで、俺は彼らを見守っていた。
ー よくやった。 ー
神が言う。
はあ〜、疲れたよ、本当に。
ー ということで、次もよろしく! ー
おい、ちょっとぐらい休ませろ!・・・と言っても聞かないか。
ー もちろん! ー
・・・わかったよ…。で、次は?
ー 白雪姫の世界よ!それじゃ、またよろしく! ー
俺の意識はそこでなくなる。
平凡な男の試練はまだ続く・・・
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